茨ちゃんは勘違い
百合絵が禍々しいオーラを身に纏い、通り過ぎる生徒達が自然と避けてしまっているその時だった。

ある女子生徒二人組が、こんな会話をしているのが耳に入ってきた。

「一年Ｂ組の城山さん、凄い事するよね～」
「うん、アレは引いた」



ピクン。



その二人組とは、そこそこ距離が離れていた筈なのだが、脊髄反射的に物理の法則を無視し、百合絵は瞬間移動と言っても過言では無い速度で女子生徒達の目の前に現れた。

さっきまで視界にすら入っていなかった人物が、次の瞬間突然現れたら普通はどう反応するのか？

答えはきっと、誰でもこうだ。

「ぎゃあぁあああぁぁっ！！？」
「ひぃいぃぃぃっ！？？」

その眼は見る者全ての動きを封じ、恐怖のドン底に陥れる。

吐く息は朝研いた歯磨き粉の匂いがするかもしれないが、エクトプラズム的な何かが出てもおかしくないような気すらする。

百合絵は至って平静を装っているつもりでも、本能が危険信号を発しているので、女子達はガクガクブルブルだ。

「ちょっと…いいかしら…」

あくまで普通に。

普通に、話しているつもりでも、地獄の底から呻くような低い声で聞こえるのは空耳なのか。

女子達の震えは止まらない。
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