茨ちゃんは勘違い
喧騒から再び静まり返った教室で、形だけでも机に向かい、桜は話を続ける。

「城山さん、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫って?」

教科書にマーカーを引き、ノートに重要な項目を丸写ししながら、素っ気なく百合絵が聞き返す。

「だって、随分長く無い?三時限目終わっちゃうよ?」
「気にしない、気にしない。それより、あんまり喋っていると、黒酉先生に見付かったら大目玉だよ。」

もっともらしい事を言っているが、その実、胸の内ではほくそ笑む百合絵。

それもその筈、このまま謹慎、若しくは停学にでもなってくれれば、暫く茨の顔を見なくて済む。

現場を教師や生徒達に見られていたと思うと、自分も他人事では無く、冷や冷やものの話だが、幸い誰にも見られては居ないようなので、百合絵にしてみればラッキーとしか言い様が無い。

今、茨が置かれている状況を考えると、思わず笑みが溢れてしまう。

「ぐふふ♪」
「え?グフ?」
「あ、何でも無い、何でも。」

気を許した隙に、『計画通り』と言わんばかりの黒い笑みを浮かべてしまった百合絵は、イメージダウンに繋がる表情を隠すように、桜の方は向かず、はぐらかした。
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