茨ちゃんは勘違い
第二志望は憂鬱
私立・桐海暁学園は、小中高大と、エスカレーター式に続く偏差値高めの名門校である。

共学であり、文武両道をスローガンとして掲げ、海乃神市でも特に有名な学校の一つであろう。

今日は入学式。

『入学おめでとう！』

と、書かれた垂れ幕がかかっている校舎を見つめ、校門の前に佇む一人の女子学生がいた。

「はぁ…」

綺麗でサラサラの黒髪を肩まで伸ばし、見る者全てを魅了しかねない程の美貌の持ち主の表情は暗く、今にもその場から逃げ出してしまいそうな小動物のような雰囲気を持っていた。

今時珍しい、清純そうでおしとやかな御嬢様という形容詞がピッタリ当てはまるであろう少女は、先程から溜め息ばかり吐いて、他の生徒が次々に通り過ぎていくのを横目に、その場から一歩も動こうとしない。

「ついに…この日がやって来ちゃったか…」

誰に聞いてもらう訳でもなく、ボソリと呟くと、覚悟を決めたように「よし！」と拳を握り締め、これから始まる入学式への門を潜った。
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