戻れないはずだった。変えられないはずだった。
時が経つのははやいというが、本当にその通りだと思う。
つい先日、帰り道で話し合ったあの日がもう二週間前のことになってしまった。
「遂にオーディションの日になっちゃったよ心臓バックバクなんだけど渚ぁ」
そう言って渚の方を見ると、何故か楽譜を掲げて何かを唱えていた。
…呪いか何かかな、渚。
「いや渚なにやってんの!?」
「こうしたら落ち着けるかなと…テヘッ」
勿論テヘッのところまで声に出すのが渚だ。
「テヘッじゃないから、落ち着けないから、周りの目が痛いだけだから、ねえ本当に」
「ごめんなちゃぁーい」
「……渚、その謝り方したら普通の人なら怒るからね、私じゃなかったら怒られてるからね」
じと、とした目を渚に向ける。
「流石に他の人の前ではしないってぇ~」
「この子の将来すっごい不安だわ…」
けらけらと私の前で笑っている渚を見ていると、どこか心配になってしまうのは私だけであろうか。
…多分私だけだな。
「まっ、まあとにかく!」
「全力だして頑張ろう、でしょ?」
「なっ、なぜ分かった!?もしかして麻帆エスパー!?」
「な訳。君の考えることくらい簡単に読めるよ」
にこにこと笑う私は、「たまにだけどね。」という言葉は心の中で言っておいた。
「エスパーじゃん。え、もうさ出し物の題目それにする!?」
「しないから。今まで頑張ったのは何だったんよそれ」