マリアージュ・キス
「今回のことでよく分からなくなっちゃったんだけどさ」

箸で脂ののったサーモンをつまみながら隣に座る彼にあらためて尋ねる。

「付き合うって、なに?」

「…は?」

ぶしつけな質問に、隣から呆れたような声。

「二人でご飯行ったら、それはもう付き合うってことになるの?“付き合いましょう”って意思確認しなくちゃ付き合えないの?逆にどこまでが付き合ってないことになって、どこからが付き合うことになるの?」

「一気に聞くなよ、わけ分からん」

ため息まじりにつぶやくと、相楽はなにやら不満そうに眉を寄せた。

「付き合うだのなんだの意思確認とかの前に、お互いがお互いを好きかどうかの確認が必要なんじゃないの?恋愛としての好きかどうかでしょ?逢坂にも言ってたじゃん」

「あぁ、そっか…」

拍子抜けした。


思い返してみれば、逆に元彼とは「付き合ってみようか」とは言われたものの「好き」というたしかな言葉はなかったように思える。
別にそれで満足していたのだから、関係性としては成立していたのかもしれないけれど、今の私だったらたぶん無理だろう。
盲目になっていたあの時だからこそそれで良かったのだと思う。

だけど今はそれじゃだめだろうな、とも感じている。
酸いも甘いもたいてい分かった今となっては、どんな言葉や行動で心が揺さぶられるのかとか、そのあたりももう曖昧になってしまった。
元彼と別れてから、恋をしようと思ったこともなかったし。


「相楽はいつからいないの、彼女?」

「…さあ。まあ、もうしばらくは…」

深く追求するつもりもなかったが、相楽は思いのほか分かりやすく言葉を濁した。


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