マリアージュ・キス
「来月、誕生日なんだ」

スマホで時間を確認しつつ、日付も目に入ったのでつい口にしてしまった。
へぇ、と隣で彼が頬杖をついたのがなんとなく視界に入る。

「いよいよ三十代なのかぁって思うと、十年前くらいに思い描いてた三十代とは全然違うんだよね」

「…思い描いてたのは、どんな?」




思い描いていたのは、二つのパターン。

バリバリ仕事をして、結婚も恋愛もすべてシャットアウトしてなりふり構わず周りを押しのけて上へ昇格。同期もなぎ倒すほどのやる気とパワーで上司をうならせるような、そんなキャリアウーマン。

もう一つは、いわゆる“女の幸せのカタチ”に当てはまりそうな、二十代半ばで結婚して寿退社、もしくは妊娠してギリギリまで働いて退職。
二人くらい子供に恵まれて、優しい旦那様と四人でそろそろマイホームでも建てようか、なんていう甘い結婚生活。


現状の私は、その二つのパターンどちらにも相当しない。

三十代になるからって、特に何も変わらないだろう。
ただひとつ歳を重ねるだけ。
そうやって、これからも生きていくのだろう。


そう思いながら、相楽に私の十年前の構想をもごもごと語ってしまったーーーーー。




< 9 / 13 >

この作品をシェア

pagetop