冷徹御曹司の溺愛は突然に、烈火のようにほとばしる~愛なき契約夫婦の艶美な一夜~
「俺さ、兄貴の代わりで、結婚相手も兄貴の嫁になるはずだった人としろって言われた時に驚いたんだ。しかも兄貴がするはずだった結婚式の日にしろって…。俺も兄貴も会社の駒にしかすぎないって思った。兄貴がダメなら俺って…。俺たちすごく仲が良かったんだ。親は俺たちのことなんて気にもかけてなかったから俺たちは2人、家政婦の幸さんに育てられたようなもんなんだ。幸さんにも子供がいるけど俺たちと分け隔てなく育ててくれたんだ。実は、幸さんの子供が弁護士の神山だ。物事をハッキリ言う奴でさ。兄弟のように育ったからこそ遠慮なんてなくてお互いいい関係だと思ってるんだ。だからあいつには何も隠さない。」
「そうだったんですね。」
「兄貴はもともと地頭が良くて一度聞けば理解でき、次の行動が取れるような男だった。幸さんに育てられたから俺たちは御曹司としてよりも一般家庭のような雰囲気で育てられ周囲からの目もあまり気になることはなかった。ただ、高校に入り兄貴の頭の良さや性格の良さが両親の目に留まり始めたんだ。大学に入る頃には会社の跡継ぎにしようと兄貴を囲い始めた。兄貴の希望する進路は認められず、経済学部へ進まされた。大学の後は海外へ留学させられて資格も取らせられた。優しい兄貴は仕方ないと苦笑いしながら受け入れていたよ。そんな兄貴を助けたくて俺も兄貴のために会社に入った。」
「…」
「兄貴は人望も厚く、みんなにも慕われていた。ただ、仕事も多くて毎日遅くまで篭っていたよ。だから俺は助けられるように、といろんな課を回って仕事を覚えたよ。両親には何の期待もされず、目にも入ってなかったと思うけどな。そんな兄貴を心配し、友人の米山も秘書になってくれたんだ。」
「…」
「兄貴は忙しい中でも気分転換に山に登ることが多かった。大学の頃山岳部にいて、山の魅力にハマった、と言っていた。俺や神山がついていく事もたくさんあったが1人で行く事もあったんだ。俺たちと行く時にはキャンプしたりして未だに馬鹿なことしたりもしてたよ。米山も行っていたと聞いたから兄貴はいろんな人と行ってたんだ。」
「亡くなることになった時も俺が誘われた…。でも俺は前日に足を捻って急遽取りやめたんだ。兄貴は1人で行く事も慣れてるから、と行くことに決めてさ。俺も兄貴が1人で行く事も時々見ていたから止めもしなかった…。」
「…」
「俺は…俺が…一緒に行っていたら助けてあげてあげられたかも知れないんだ。俺が行かなかったから兄貴は…崖から落ちても1週間も発見されなかったんだ。寒かったんじゃないか、痛かったんじゃないか、誰かを呼んでいたんじゃないか、助けて欲しいと思っていたはずなんだ。なのに…あそこで息絶えてしまうなんて…兄貴に申し訳なくて。何て謝ったらいいのかわからなくて。」
「そんな…。事故ですよ。響さんが悪いわけではないです。不慮の事故です。」
「いや、でも…俺がついていたら。兄貴は助かったかも知れない。そもそも崖から落ちることはなかったかもしれないんだ。俺が落ちてたかもしれない。」
「響さん!響さんの辛い気持ちは分かります。でもね、お兄さんはそんな事思ってないと思いますよ。兄弟仲が良かったんですよね。響さんのせいで亡くなった、なんて思ってるでしょうか。それに仮定の話ばかりです。お兄さんはそんな後ろ向きな響さんを見てどう思うのでしょうか。」
「親からも俺がついていかなかったせいだと責められ、俺ではなく兄貴がいてほしかったと言われたんだ。」
「そんな…どうしてそんなことを…。」
「もともと不介入だった親が子供に関心をもてたのは優秀だったからなんだ。だから兄貴しかいらなかったんだ。親に期待さえしてもらえない俺が生き残るべきではなかった…。どうして、どうして俺じゃなかったんだろう。」
「私は…、私は響さんがいてくれて嬉しいです。響さんが生まれてきてくれた事も、今ここにいることにも神様に感謝しています。私に巡り合わせてくれたことも。だからそんな悲しいこと言わないでください。お兄さんだって悲しみます。」
「玲奈…。」
「たしかにお兄さんのことを大切に思っていたかも知れません。でも亡くなって悲しい時にお兄さんの結婚相手を響さんと変更し、式場も日にちもそのままで決行しようとするご両親に私は怒りさえ覚えます。どうしてそんなひどいことができるんでしょうか。お兄さんに対しても、響さんに対しても酷すぎます。」
「玲奈…一緒に怒ってくれるの?悲しんでくれるの?」
「もちろんです。大切な家族を失ったのに響さんを責めるなんて酷い。お兄さんの死を何だと思ってるんでしょうか。」
「俺…自信がなかったし自信を持てなかった。ただ、兄貴が守ってきた会社を俺が代わりに守りたいとは思った。親は関係ない。だから兄貴が亡くなって会社が不安定になった時、親に打診され副社長にはなった。けど親のためでなか兄貴のためだと思ったからやることにしたんだ。」
「…」
「でも、結婚だけは受け入れなかった。俺ら兄弟に対する侮辱だと思ったから。勝手に兄貴の結婚相手を決めた挙句、それを俺に平気な顔して変更するなんておかしいだろ。でも相手の親も弓川の名前が欲しいからってお構いなしだ。娘も弓川の嫁になれば贅沢できるから何でもいいんだろ。俺の名前も知らないくせに平気な顔して兄貴から乗り換えようとしてたよ。その浅ましさにゾッとした。みんなおかしいと思った。」
「そんな。酷い。」
「だから玲奈が現れた時に助かったと思った。借金を払うだけで1年だけの妻をしてくれるなんて安いもんだと思った。何もプライベートは干渉するつもりなんてなかった。なのに俺は玲奈に落ちたんだ。玲奈の家庭的なところに安心感を覚えた。カードを渡しているにもかかわらず食費しか使わず、節約さえしてくれる。俺の話に耳を傾け、欲しい言葉が分かるかのように俺を癒してくれる。」
「響さん…。」
「こんな俺だけど…こんな奴なんだけど…俺と本物の結婚をしてくれないか?」
「響さんは優しい人です。困っている私を放っておくことができず手を差し伸べられる人です。契約のことは後からじゃないですか。私が道でフラフラしてたのを助けてくれたじゃないですか。それに契約と言いながらも私にどれだけの配慮をしてくれたか、私分かっています。感謝しかなかったです。」
「そうだったんですね。」
「兄貴はもともと地頭が良くて一度聞けば理解でき、次の行動が取れるような男だった。幸さんに育てられたから俺たちは御曹司としてよりも一般家庭のような雰囲気で育てられ周囲からの目もあまり気になることはなかった。ただ、高校に入り兄貴の頭の良さや性格の良さが両親の目に留まり始めたんだ。大学に入る頃には会社の跡継ぎにしようと兄貴を囲い始めた。兄貴の希望する進路は認められず、経済学部へ進まされた。大学の後は海外へ留学させられて資格も取らせられた。優しい兄貴は仕方ないと苦笑いしながら受け入れていたよ。そんな兄貴を助けたくて俺も兄貴のために会社に入った。」
「…」
「兄貴は人望も厚く、みんなにも慕われていた。ただ、仕事も多くて毎日遅くまで篭っていたよ。だから俺は助けられるように、といろんな課を回って仕事を覚えたよ。両親には何の期待もされず、目にも入ってなかったと思うけどな。そんな兄貴を心配し、友人の米山も秘書になってくれたんだ。」
「…」
「兄貴は忙しい中でも気分転換に山に登ることが多かった。大学の頃山岳部にいて、山の魅力にハマった、と言っていた。俺や神山がついていく事もたくさんあったが1人で行く事もあったんだ。俺たちと行く時にはキャンプしたりして未だに馬鹿なことしたりもしてたよ。米山も行っていたと聞いたから兄貴はいろんな人と行ってたんだ。」
「亡くなることになった時も俺が誘われた…。でも俺は前日に足を捻って急遽取りやめたんだ。兄貴は1人で行く事も慣れてるから、と行くことに決めてさ。俺も兄貴が1人で行く事も時々見ていたから止めもしなかった…。」
「…」
「俺は…俺が…一緒に行っていたら助けてあげてあげられたかも知れないんだ。俺が行かなかったから兄貴は…崖から落ちても1週間も発見されなかったんだ。寒かったんじゃないか、痛かったんじゃないか、誰かを呼んでいたんじゃないか、助けて欲しいと思っていたはずなんだ。なのに…あそこで息絶えてしまうなんて…兄貴に申し訳なくて。何て謝ったらいいのかわからなくて。」
「そんな…。事故ですよ。響さんが悪いわけではないです。不慮の事故です。」
「いや、でも…俺がついていたら。兄貴は助かったかも知れない。そもそも崖から落ちることはなかったかもしれないんだ。俺が落ちてたかもしれない。」
「響さん!響さんの辛い気持ちは分かります。でもね、お兄さんはそんな事思ってないと思いますよ。兄弟仲が良かったんですよね。響さんのせいで亡くなった、なんて思ってるでしょうか。それに仮定の話ばかりです。お兄さんはそんな後ろ向きな響さんを見てどう思うのでしょうか。」
「親からも俺がついていかなかったせいだと責められ、俺ではなく兄貴がいてほしかったと言われたんだ。」
「そんな…どうしてそんなことを…。」
「もともと不介入だった親が子供に関心をもてたのは優秀だったからなんだ。だから兄貴しかいらなかったんだ。親に期待さえしてもらえない俺が生き残るべきではなかった…。どうして、どうして俺じゃなかったんだろう。」
「私は…、私は響さんがいてくれて嬉しいです。響さんが生まれてきてくれた事も、今ここにいることにも神様に感謝しています。私に巡り合わせてくれたことも。だからそんな悲しいこと言わないでください。お兄さんだって悲しみます。」
「玲奈…。」
「たしかにお兄さんのことを大切に思っていたかも知れません。でも亡くなって悲しい時にお兄さんの結婚相手を響さんと変更し、式場も日にちもそのままで決行しようとするご両親に私は怒りさえ覚えます。どうしてそんなひどいことができるんでしょうか。お兄さんに対しても、響さんに対しても酷すぎます。」
「玲奈…一緒に怒ってくれるの?悲しんでくれるの?」
「もちろんです。大切な家族を失ったのに響さんを責めるなんて酷い。お兄さんの死を何だと思ってるんでしょうか。」
「俺…自信がなかったし自信を持てなかった。ただ、兄貴が守ってきた会社を俺が代わりに守りたいとは思った。親は関係ない。だから兄貴が亡くなって会社が不安定になった時、親に打診され副社長にはなった。けど親のためでなか兄貴のためだと思ったからやることにしたんだ。」
「…」
「でも、結婚だけは受け入れなかった。俺ら兄弟に対する侮辱だと思ったから。勝手に兄貴の結婚相手を決めた挙句、それを俺に平気な顔して変更するなんておかしいだろ。でも相手の親も弓川の名前が欲しいからってお構いなしだ。娘も弓川の嫁になれば贅沢できるから何でもいいんだろ。俺の名前も知らないくせに平気な顔して兄貴から乗り換えようとしてたよ。その浅ましさにゾッとした。みんなおかしいと思った。」
「そんな。酷い。」
「だから玲奈が現れた時に助かったと思った。借金を払うだけで1年だけの妻をしてくれるなんて安いもんだと思った。何もプライベートは干渉するつもりなんてなかった。なのに俺は玲奈に落ちたんだ。玲奈の家庭的なところに安心感を覚えた。カードを渡しているにもかかわらず食費しか使わず、節約さえしてくれる。俺の話に耳を傾け、欲しい言葉が分かるかのように俺を癒してくれる。」
「響さん…。」
「こんな俺だけど…こんな奴なんだけど…俺と本物の結婚をしてくれないか?」
「響さんは優しい人です。困っている私を放っておくことができず手を差し伸べられる人です。契約のことは後からじゃないですか。私が道でフラフラしてたのを助けてくれたじゃないですか。それに契約と言いながらも私にどれだけの配慮をしてくれたか、私分かっています。感謝しかなかったです。」