冷徹御曹司の溺愛は突然に、烈火のようにほとばしる~愛なき契約夫婦の艶美な一夜~
玲奈が車椅子で部屋へ戻ってくると赤ちゃんも連れてきてくれた。

まずは俺が抱かせてもらう。
恥ずかしいことにまた感動し、涙が滲んでしまった。
俺の腕の中にすっぽりと収まる小さな体に庇護欲をかきたてられる。
お母さんに赤ちゃんを渡し、俺はこっそり涙を拭った。

「まぁ、なんて可愛いの。ばぁばですよ〜。」
お母さんは流石で抱っこがとても手慣れており、ふぇん、ふぇんと言っていた赤ちゃんをあやしている。

「さぁ、おじいちゃんにもいってみましょうね。」

「いや、私は…。」

「大丈夫ですよ。久しぶりでも経験者なんだから。」

お父さんも手慣れた様子で抱っこしていた。
そしてお父さんの目にも涙が滲んでいるように見えた。

「弓川くん、名前は決めてるのか?」

「えっと…まだ候補なんですが。慶介(けいすけ)か朔也(さくや)、駿太(しゅんた)はどうかな、と思ってるんです。玲奈はどう思う?」

「私…慶介がいいな。」

「じゃ、慶介にしようか。どうでしょう。お父さん。」

「いいじゃないか。慶介くんか。品格のあるいい名前だ。誰からでも間違いなく名前を呼んでもらえるしいい字だと思う。」

「じゃ、慶介にします。」

「あらー、あなたはけいちゃんですって。けいちゃん。」

お父さんの腕の中で眠る慶介は気持ちよさそうで、早速写真に収めた。
お父さんは最初こそ照れていたが写真を喜んでくれていた。

「ねぇ、響さん…響さんのご両親には伝えなくていいの?」
そう玲奈が呟いた。

「…。」

「弓川くん。色々あっただろうが孫を喜ばない親はいないのではないかな。私たちも今、なんとも言えない嬉しい気持ちでいっぱいだ。無理にとは言わないが…連絡だけしてみたらどうだ?」

「響さん。母親はこうしてお腹を痛めて産んでるのよ。だからあなたのこともこうして産んだの。連絡してみたらどうかしら。もし喜んでくれないなら私たちももう何も言わないわ。私たちが沢山の愛情を慶ちゃんにあげましょう。でももし私があなたのお母さんなら知りたいと思ってるんじゃないかしらね。」

「はい…。正直俺は可愛がられた覚えも何かしてもらった覚えもないんです。でも、こんな思いをして産んでくれたんだと気が付いたんです。跡取りなら兄がいて俺を産む必要なかったはずなのに2人目を産んでくれたのには…と思うと。」

「弓川くん、言わずに後悔するよりは言って後悔したほうがいい。言わなければ何もわからないんだから。」

「はい…。」

「響さん。」

「玲奈。俺、ちょっと電話してくる…。」
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