冷徹御曹司の溺愛は突然に、烈火のようにほとばしる~愛なき契約夫婦の艶美な一夜~
「玲奈、まずは温泉に入るか!内風呂があるんだ。気持ちいいよ。入っておいで。」

「響さんが入ってください。私は大浴場に行ってきますから。」

私はそそくさと荷物を広げお風呂に行くための支度をした。
 
「え?玲奈が入っていいよ。」

「響さんがどうぞ。日頃のお疲れが取れますよ。私も行ってくるのでゆっくりしてくださいね。」

私はそそくさと部屋を後にした。

大浴場は誰もおらず貸切状態だった。内風呂も広いがなんと言っても外風呂が最高だった。
いくつかに分かれている外風呂に、楽しくなり色々試してみる。
どれもぬるめのこともあり、いくらでも入れそう。
紅葉したもみじを始め、色々な木々を見ながら入るお風呂にマイナスイオンが降りかかる。
贅沢な温泉だなぁ。
久しぶりにこんなのんびりしたなぁ。
この半年、私の生活は激変したからこんなにも手足を伸ばし肩の力を抜いたのは久しぶり。
付いてきて良かったなぁ。
こんな贅沢な温泉、2度と来れないだろうなぁ。響さんに感謝だわ。

私はお風呂から出ると浴衣を着て、部屋へ戻ろうとしたがまだ早いかな?と思い庭へ向かった。
池には立派な鯉が泳いでおり、小さな橋までかかっている。
今日はお客様が少ないのか誰もいない。

通りがかった仲居さんが「餌をあげますか?」と聞いてくれる。

「餌をあげるなんて子供の頃以来です。懐かしいなぁ。」

「あら、じゃあお持ちしますね。湯冷めしませんか?羽織もお持ちしましょうね。」

「ありがとうございます。」

仲居さんは羽織と餌を持ってきてくれ、私はパラパラと撒き始める。すると鯉が口をパクパクさせながら近づいてきた。
あれ?こんなにいたの?池にいた鯉がみんな集まってきたかのように大集合。
水しぶきを上げながら餌の争奪戦が始まる。
まだあるよー、声をかけまた餌を撒くと凄い勢いで食べる。
遠くにいる子達にも届くように遠くまで投げたりしていたら後ろから声が聞こえてきた。

「玲奈ー!」

振り返ると浴衣の響さんがいた。

「ここにいたの?あんまり戻ってこないから心配になって。」

「ごめんなさい。響さんがゆっくりできるように、と思って庭を散策してたら仲居さんが餌をくれたんです。」  

「いつもみたいに部屋にいてよ。1人だとゆっくり、というか返って落ち着かなくてさ。」

それって…

「俺にも餌ちょうだい。懐かしいなぁ。子供の頃以来だよ。」

「私もです。なんだか餌あげるの楽しくって。あっちの子達になかなかあげられないんですよね。争奪戦に負けちゃって。なかなか厳しい社会みたいですよ、鯉の世界も。」

「なら俺が助けてあげる。」

投手のように遠くまで餌を投げる響さん。お陰で近くにいた子達にも餌をあげることができた。

「すごいですね!軽いからふわふわして私はあまり遠くまで届かなかったのに。」

「鯉社会からするとダメなのかもしれないけど可哀想だからな。競争ばかりするのも大変だからさ。」

自分のこと?鯉のこと?

深く聞くことが出来ない自分の立場に口をつぐむ。
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