遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
宴もたけなわになり幹事が会計をしている中、二次会はどうしようなとどと陽気な笑い声に包まれていた。

「私お手洗いに行ってから出ますね」

「わかったー」

和花は小百合に告げ、トイレから戻ると、もうすでに店の外には誰もいなくなっていた。

(もう下におりたのかな?)

この居酒屋はビルの三階に位置する。
行きは小百合とエレベーターに乗ってきた。ふと見ればエレベーターの前に知らない男性が一人待っている様子だ。

和花は無意識に階段を探してうろうろとしていた。

「橘さん?どうかしましたか?」

突然名前を呼ばれ、和花はドキッと肩を揺らす。ただ、その柔らかな声色はほんの少し安心感をもたらす。

「佐伯さん……」

「皆さんもう下に行ったんじゃないかな?」

「はい」

エレベーターが開く音がして、和花と秀人はそちらを見る。

「あ、お先にどうぞ」

和花は手で促すが、秀人は先にエレベーターに乗った男性に”乗りません”とジェスチャーで伝え、そのままエレベーターのドアが閉まった。

「……階段で行きますか?」

「え?!」

「もしかしてエレベーターが苦手かと思ったんですが、違いましたか?」

「は、はい。そうです」

「階段ならここですよ」

秀人が指差す先に、薄暗い非常階段の扉が見えた。
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