遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
軽く背中を押される形で先程まで人が群がっていたブッフェコーナーへ進む。

「何か食べようか?」

渡されるまま和花は素直にブッフェ用の皿を受け取る。

「パスタは?」

「食べたいです」

「チキンは?」

頷くたびに秀人は和花の分までどんどん皿に盛り付けていく。あっという間に皿いっぱいになった。

二人は空いている席に座るとモソモソと食事を始める。料理はだいぶ冷めてしまっていたが、秀人に取り分けてもらったことが和花にはたまらなく嬉しかった。

チラリと秀人を盗み見するとすぐに目が合う。何?と軽く首を傾げる秀人に、和花は必死に話題を探す。

「えっと、佐伯さんはなぎささんと同期なんですね?」

「うん、富田さんはすごく社交的だから一番に結婚するかと思ったけど、やっとかーって感じだな。ま、同期で結婚してないのは俺だけになっちゃったけど。そのことを富田さんにも突っ込まれたよ」

自虐的に笑う秀人に和花はぐっと胸が詰まる。この流れで聞いてみたいことがあった。和花はすうっと息を吸うと一息に紡ぎだす。

「佐伯さん結婚のご予定はあるんですか?」

「え?」

「あ、ごめんなさい。そんなプライベートなこと……」

やはり聞いてはまずかっただろうか、和花は慌てて口を押さえる。だが秀人は声もなく笑いながら教えてくれる。

「いや、結婚どころか彼女もいないから、このまま一人かも」

「ええっ!」

「いや、驚きすぎでしょう?」

「だって佐伯さんは優しくて頭も良いしかっこいいし、彼女がいないなんて信じられません」

「昔から恋愛は苦手なんだ」

「嘘だぁ……」

「まあ確かによく告白はされるんだけど」

「ほら、やっぱり」

「だけど俺はスペックだけがよくてつまらないヤツらしい。毎回そうやってフラれる」

「あはは!きっと歴代の彼女さんは佐伯さんのスペックしか興味がなかったんですね。もったいないですね、佐伯さんは優しくて素敵なのに」

「……じゃあ橘さんが僕の彼女になってくれる?」

「……えっ……ええっ?!」

言われた意味をストレートに受け取った和花は一気に真っ赤になった。

「なんて冗談……」

秀人が冗談で流そうとしたとき、ちょうど照明が一段落とされBGMの音量が上がった。

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