遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
グツグツと煮える食材。
部屋に広がる砂糖醤油のあまじょっぱい香り。
そして目の前には秀人。

和花は知らず知らずのうちに自然と笑顔になっていた。

「和花はよく笑う子だったんだね。会社で一緒にいるのに気付かなかったな」

「佐伯さんこそ、会社では全然笑ってないですよ」

「そうかな?」

「そうですよ。林部さんがとても優しい人だったから、次のチーム長が怖い人だったらどうしようって思っていました」

「林部さんからとても可愛がられていたんだね」

「はい、ありがたいです」

「僕も和花のことを可愛がっているつもりなんだけど」

「っ!そ、そうですね、いつもありがとうございます」

秀人の言葉に変な意味はないだろうが、和花は妙に緊張してしまう。自分だけドキドキと動揺してしまって、当の秀人は涼しい顔をしているのも更に和花の気持ちを乱れさせる。

「お肉煮えましたよ」

「和花がビンゴで当てたんだから、まずは和花から食べなよ」

「じゃあ……いただきます」

箸で持ち上げただけでふにゃりとする牛肉は見るからに柔らかそうだ。溶いた卵にくぐらせてから口に運ぶと、すぐにとろけてしまった。

「美味しい~!佐伯さんも食べてください。ビックリするくらい柔らかいです」

「本当?いただきます」

きちんと手を合わせてから秀人も箸を付けた。食べ方も綺麗な秀人は見ているだけで満たされてしまいそうになり、和花は食べることも忘れて秀人を凝視してしまった。

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