全ては、お前の為
虐待と小さな手
「やめて!お父さん!
痛い!痛いよぉ……」

「うるさい!
誰のお陰で他人のお前がここまででかくなったと思ってんだ!
口答えするな!!」

毎日の虐待に耐える日々。

そんな地獄の毎日の中。
心の支えは、弟・紅零だった。

黒滝 雨音。
黒滝家にお世話になって、二年経った五歳の夏。
それまでできなかった子どもができた、黒滝家。
それを期に、雨音は両親から虐待を受けるようになったのだ。

雨音は生まれてすぐに施設に預けられた為、本当の親の顔を知らない。
黒滝家に三歳の時に、養子に入り紅零が産まれるまでは大切に育てられた。

でも紅零が産まれ事態は一転し、いらない子だと言われ虐待の日々を過ごすことになったのだ。

五歳年下の紅零の存在が、支えだった。
物心つくようになった紅零。
その小さな手で、必死に雨音を守ろうとしてくれていたからだ。
それだけが雨音の生きる希望であり、ここまで生きてこられたのだ。

そして、20歳の誕生日と同時に籍を外され、旧姓の岸田 雨音として生きている。

「雨音、俺が大人になったら迎えに行く。
そしたら、結婚しよ?
だって、もう雨音は姉ちゃんじゃないから」
家を出ていく日、紅零が言ってくれた言葉。

今度はその言葉を支えに、生きているのだ。


お互いに黒滝家での生活で想いを温め、寄り添うように生きてきた二人。
いつも紅零だけは、雨音の味方だった。
姉ちゃんは俺が守ると言って、小さな身体で父親に歯向かっていた。




雨音はその言葉だけでよかった。


まさか、ほんとに迎えに来てくれるとは………




そして、紅零がこの離れていた間にどんな風に生きてきたか………

雨音はその紅零の残酷な行為の数々と雨音に対する揺るぎない深い愛情を知ることになる。
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