全ては、お前の為
「雨音…?何言ってるの?」
「紅零、私には無理だよ……」
「何……が…?」
「楓夏みたいに目を瞑るなんてできない……」
「まさか…別れるなんて、言わないよな?
放れるなんて………」
「それもできない…」
「雨音…?」
「私、もう楽になりたい…」

「雨…音……?」

「死にたい……」
「━━━━━!!!!」




雨音は幼少の頃から虐待されていたが“死にたい”とだけは決して言わなかった。
小さな紅零が必死に守ろうとしてくれていたから。
むしろ生きて、紅零を幸せにしたいと思って生きてきた。

でも今、自分の想像を越える紅零の想いと、残酷な行為の数々に心が死んでいく。

紅零の想いは、全て自分にしか向いていない。
露鬼の言う通り紅零はこの五年、雨音“しか”頭になかったのだろう。

ただ二人で暮らす、それだけの為に生きてきたのだ。

きっと両親も、紅零が殺したのだろう。
聞かなくても、わかった気がした。

これ以上紅零が犯罪をおかす位なら、自分がこの世にいなくなった方がいいはずだ。

雨音はただ、紅零と一緒にいたかった。
それだけだったはずなのに、いつから狂ってしまったのだろう。

「だったら、俺も死ぬ!」
「紅零…」
静かに、紅零が言った

「じゃあ…僕が殺してあげるよ?
二人仲良くね………!
大丈夫だよ、苦しませたりしない。
一瞬で二人を、天国に送ってあげる」
「雨音!!」
「楓夏…大好きだよ!私の最初で最期の大切な親友だよ!」
「露鬼、ありがとう!今まで!」

「うん!じゃあ…いつか、四人で会おうね!」

露鬼がナイフを取り出し、紅零と雨音の首を一瞬で切った。
手をしっかり絡めて繋いでいた二人は、苦しむことなくパタンと倒れた。

初めて、露鬼の目に涙が浮かんでいた。
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