全ては、お前の為
紅零は露鬼への挨拶後、その下の階の自宅に向かった。

一人で住むには広すぎる間取り。
ここに明日(正確には今日)から雨音と住む予定だ。
家具も最低限の物しかなく、殺風景だが少しずつ雨音と増やしていけばいい。

これで準備は整った。

「あとは、雨音を迎えに行くだけ」

あの日━━━
雨音が出ていった日。
一日中泣いていた。
泣いても、泣いても…涙が止まらなかった。
一生分の涙を流したのではないかと思う程、声を上げて泣いたのだ。

ずっと悔しかった。
大好きな雨音を守れない、自分に。
あまりにも小さく、弱い自分に。
自分が未成年だという、事実に。

ずっと雨音を守れる大きな手が欲しかった。
雨音を包み込む広い胸が欲しかった。
両親と戦える力が欲しかった。

早く━━━━大人になりたかった。

「早く、雨音に会いたいな」
紅零はその呟きと共に、眠りについた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして日は昇り昼休み、雨音は友人の楓夏と共に近くの定食屋に来ていた。
心ここにあらずの雨音。

「雨音?」
「ん?何?」
「何?はこっちのセリフ!どうしたの?」
「今日…誕生日だなって……」
「元・弟くんね!」
頬杖をついて、雨音を見る楓夏。

「うん…今日で20歳だな~って。
どんな風になってるんだろうって」
「露鬼に言ったら、すぐに探して連れてきてくれるよ」
「いいの。
紅零の邪魔になりたくない。
今きっと、幸せに暮らしてるだろうから…」

「幸せじゃなかったら?」
「え━━?」
「紅零くんが、雨音に会いたがってたらどうするの?」
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