全ては、お前の為
雨音は毎年、紅零の誕生日はケーキを買い一人でお祝いしている。
今日も、一番小さなサイズのホールケーキを買って帰った。

「あんなに小さかった紅零が大人かぁ……
どんな大人になってんだろ?」
色々考えを巡らせながら、家路をゆっくり歩いていた。

そしてアパートの前、一台の大型バイクが止まっていた。
「ん?なんだろ?」
少しずつ近づく、雨音。
バイクに跨がっている人物を見て雨音は、動きが止まった。

「紅零……?」
その人物が振り向く。
「雨音!!」
「嘘……」
雨音の動きも思考も、もしかしたら息さえも一瞬止まっていた。

紅零は駆け出し雨音の元に来た。
そして抱き締められたのだ。
あの日のままだった。
雨音が出ていった、あの日の。

身体の大きさや声は変わっていたが、温かさ、匂い……何よりこの安心させる雰囲気があの日のままだったのだ。

「逢いたかった…雨音に。
ずっと………
迎えに来たよ!約束、果たそう!」
「………」
「雨音?」
腕を緩め、顔を覗き込む紅零。

「一生、会えないって思ってた。
でもそれでもいいって!
紅零が幸せでいてくれたら、それで……
………でも、やっぱり……」
そして雨音は紅零を見上げた。

「逢いたかったよ。私も!
ほんとは、心のどこかでずっと…この日を待ってた。
紅零が大人になる、この日を……」
紅零の胸に顔を埋めた。
「うん…」

雨音のアパートに入る。
「なんか雨音らしい部屋だな」
「そう?ご飯、食べた?ごめんね、まさかほんとに会いに来てくれると思わなくて、何もないの。
だから、簡単な物しか作れない」
「うん、大丈夫。何でもいいよ!雨音が作った物なら。でも、ケーキはあるんだね!」
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