全ては、お前の為
昔はよくこんな風に雨音の手を握り、
「ごめんね…また守れなかった。
僕がもっと強かったらよかったのに……」
と、苦しい悲しい思いを吐き出していた。

「雨音」
「ん?」
雨音は掴まれていない方の手で、紅零の頭を撫でた。

「好きなのは、俺の方だよ」
「紅零…」
「ずっと…雨音だけを想ってきた」
「うん…」
「ずっと逢いたくて…でも大人になるまではって必死で我慢してた」
その間、雨音はずっと紅零の頭を撫でていた。

「この五年、雨音を守る為に、雨音と二人で幸せに生きていく為に必死に生きてきたんだ」
「紅零…ありがとう!」
「だからね、俺━━━━」
「私も大好きだよ。紅零のこと」
「雨音…」
「紅零が私の生きる証なの。
黒滝家での生活はほんとに地獄だった。
そんな中、紅零がいてくれたから……
まだ身体も小さくて子どもだった紅零が、必死に守ろうとしてくれたから私も頑張ろうって、生きて今度は私が紅零を守りたいって思えたの。
今日、もし…紅零が来なかったら、私から探して会いに行く予定だったんだよ。
それでね、私から言おうと思ってた。
…………私と結━━━━━」
「待って!!」
「え?」
途中で紅零が雨音の言葉を遮る。

「それからは俺に言わせてよ!」
「紅零?」
「雨音、俺と結婚しよう!」
「………うん、喜んで!」
紅零は雨音を力強く、もう放れないように抱き締めた。

それから夕食を済ませ、ケーキを用意する。
「ごちそうさま、久しぶりに食べたなぁ。
雨音のご飯。
旨かった!」
「フフ…よかった!」
「ケーキ、ちょうどいいね!でも、いつもは一人で食べてたんだよな……」
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