秘密の出産でしたが、御曹司の溺甘パパぶりが止まりません


「ごめんなさい」

震える声で、でもしっかりと言う。
空港内はそれなりに騒がしいのに響一さんの息をのむ微かな音が聞こえ、胸がキリキリと締め付けられる。感情のままうっかり余計なことを言わないよう、唇を引き結んだ。

響一さんは少し間を空けたあと、また一歩距離を詰める。

床を見つめていた視界に入り込んできた革靴に……近づいた響一さんの気配に、切なさで胸が砕けそうになる。

「父親は俺じゃないってこと?」

響一さんの冷静で淡々とした声のトーンから、今、観察するように私の様子を見ているのだとわかった。

私のつく嘘を見逃さないよう、あの綺麗な形の目が私に向いているのだと思うだけで緊張で声が喉に張り付く。

ひとつ呼吸をして、下を向いたままギリッと歯を食いしばってから口を開いた。

「……ごめんなさい」
「それは、なにに対しての謝罪だととればいい? まさか、俺を裏切ったことへの謝罪?」
「ごめんなさい」

壊れたみたいに〝ごめんなさい〟だけを繰り返す私に、響一さんはしばらく黙った。
きっと、私の謝罪を肯定ととったからだろう。

搭乗アナウンスの声が放送される中、ふたりの間に長い長い沈黙が落ちる。
油断したら涙が流れるのがわかっているので、大きくうねる感情の波に決心が揺れないよう必死に耐えていた。

私ができることは、ただひとつ、謝るだけだ。
謝って、響一さんに諦めてもらうだけ。

離れていた一年一ヵ月の間で、もがきながらも自分で決めたことだった。

この行為が彼にとってひどい裏切りに映るのはわかっているので、顔が上げられない。

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