秘密の出産でしたが、御曹司の溺甘パパぶりが止まりません
「一年一ヵ月前、俺が出国するとき、千紗は〝頑張って待ってる〟って言ったけど、あれは?」
静かな声で問われ、胸が揺り動かされる。
たしかに私が言った言葉だ。
でも……。
「そのつもりだったけど、無理だったんです。だから……本当にごめんなさい」
できる限り頭を下げる。
そんな私に、響一さんは手を伸ばし、優しく頬に触れた。
「千紗。顔を上げてほしい」
温かい手に誘われるようにゆっくりと顔を上げると、目を細めた響一さんと視線がぶつかる。
見上げる首の角度が懐かしくて、泣かないと覚悟してきたのに、そんなところに心を揺さぶられる。
「電話でもメッセージでも子どものことをひとことも言わなかったのは、俺には関係ないからってとればいいのかな。こんなサプライズ、想像もしていなかったから……驚いたよ」
つらそうにしながらも微笑んでくれる響一さんに、グッと奥歯を噛む。
泣くな、泣くな、と心の中で念じる。
「俺がいなかった間になにがあったのか詳しく聞きたいところだし、説明するのが千紗の義務だとも思うけど……今は俺も感情的になってるし、こんな小さな子の前でする話じゃないからやめておく」
〝感情的になってる〟という言葉に堪らない気持ちになる。
仕事を終えてせっかく帰国したのに、約一年ぶりに会った恋人が別の男性との間にできた赤ちゃんを抱いている。
少なくとも響一さんにはそう映っているのだから、ひどい裏切りを受けたと感じているはずだ。
それなのに、感情全部抑え込んで声ひとつ荒げない響一さんに、ついに我慢できずにじわじわと目の奥が熱を持った。
いつだって穏やかな彼が、心の中では今どれだけ冷静さを失っているかを考えると鋭い痛みが胸を刺した。