秘密の出産でしたが、御曹司の溺甘パパぶりが止まりません

「とりあえず……今、幸せなんだな?」と問われ、しっかりとうなずく。

「……はい。この子がいるから」

はっきりと答えた私に、響一さんは少しだけ安心したような顔をする。

この()に及んで私の心配なんてする響一さんの優しさに、胸を締め付けられながら口を開いた。

「あの、全部私が悪いんです。響一さんはなにも悪くない。それだけは絶対だから……勝手なこと言うようですけど、幸せになってください。私のことは、恨んで責めて、忘れてください」

必死に見上げて言うと、響一さんはやや驚いた顔をしたあと、ふっと頬を緩めた。

「〝恨む〟か。そうさせてもらうよ。千紗の嫌いな幽霊が出るように有名な霊媒師にでも頼んでおく」
「えっ」

幽霊なんて単語を出されビクッと肩が揺れる。
思わぬ返しをされ声をもらした私に、響一さんはおかしそうに笑う。

再会してから初めての、しっかりとした笑顔だった。

「冗談に決まってるだろ。そこまで子どもじみてないよ。……母親になったっていうのに、怖がりなままなんだな」

懐かしむような眼差しを向けられ、目を見開く。
まるでまだ愛情がこもって見える瞳に耐えきれなくなり、子どもを抱き直す振りをしてうつむいた。

「じゃあ……行くよ。千紗。身体には十分気をつけて」

別れの言葉に、瞬間的に心臓が押しつぶされそうになる。

響一さんは態度には出さないだけで、やっぱり落胆しているんだろうか。幻滅されただろうか。
そんな、感じても仕方のない不安に襲われ視界が揺れる。

それでも、腕の中で眠るこの子の体温が、私の背中を支えてくれていた。

「はい。響一さんも」

顔を上げた私に微笑みを返した響一さんが、背中を向け離れていく。

付き合っているとき、何度も見送ったうしろ姿。
離れている間も、諦めきれずあがき続けたほど好きな人。

この背中を見つめるのは、きっとこれが最後だ。
それがわかっているから、いつまでも目が逸らせなかった。


 *サンプルはここまでとなります。

< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:32

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
  • 書籍化作品
表紙を見る
高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
pinori/著

総文字数/116,025

恋愛(キケン・ダーク)213ページ

表紙を見る
赤ちゃんを授かったら、一途な御曹司に執着溺愛されました
  • 書籍化作品
[原題]許嫁御曹司が秘めた、執着的溺愛
pinori/著

総文字数/136,193

恋愛(純愛)248ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop