堅物女騎士はオネエな魔術師団長の専属騎士になりました。
冷や汗だろうか、たらりとひとつ頬に流れ落ちた。

詳しいことは良く分からないが、多分歓迎されていないのだろうと理解する。

それはマリアベルだからなのか、それとも別な理由があるのか。いずれにせよマリアベルからこの任務を辞退することはできない。

ジークウェルトはぶつぶつと恨み節を呟いた後、はあと大きくため息をつく。

「とりあえず中に入ってもらえるかしら?ちょっと詳しい話をアイツに聞くから」

「は、はい」

ジークウェルトは仕方なくといった態度でマリアベルを部屋の中へと招き入れた。
一礼して中へ。

薄暗い廊下とは正反対に部屋の中は明るく、甘い香りが鼻腔をくすぐった。

左右の壁際には天井までの高い本棚があり、魔導書などの本が隙間なく埋められ、窓側には長い机。そこには実験器具と書類のようなものが雑に重ねられ、机の横には大きな魔道具が置かれている。

ジークウェルト自体強烈な人物であるから、部屋の中もさぞかし奇抜な物で溢れているかと思っていたのだが、そこは意外と普通らしい。
だが、マリアベルにとってはあまりお目にかかれないものばかりであった。あちこちと見てしまうのは無粋であるが、普段見慣れない物の数々につい目をやってしまう。

「ちょっとそこで待っててくれる?」

待機するように言われ、マリアベルは背筋を伸ばしそれに従った。


ジークウェルトは唇に人差し指をあてると、詠唱を始める。そしてその人差し指を投げるようにして振り下ろすと、ボン!という音と共に兄であるレオンハルトの姿が現れた。
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