堅物女騎士はオネエな魔術師団長の専属騎士になりました。
それゆえの騎士団なわけである。
この国の騎士たちは、騎士となる際、神の御前でこの国への忠誠を誓う。
いかなる場合でも、この国に命を捧げ決して裏切ることはないと。
一番信頼出来る者たち、それが騎士団の面々だ。
そんなわけでマリアベルは騎士としての仕事に加え、雑用係もこなしているという状況なのであった。
「次、青の18番お願い」
「承知いたしました」
指示されたの化粧品を手渡しながら、マリアベルはぼんやりと思う。
この仕事を歴代の騎士が行っていたわけか。……口説かれながら、と。
美容のことはさほど興味はないマリアベルであったが、さすがに何も知らないというわけではなかった。
伯爵令嬢の肩書もあるから、一応令嬢としてのマナーなどは教え込まれている。
もちろん化粧も貴族の嗜み。夜会などでは必須のものであるから、やらないだけで知識はある。
だから初めはジークウェルトの化粧品の多さに戸惑いはしたものの、直ぐに理解出来た。
しかしこれが男性であったなら。
白、青。これは容器の色を表しているから見分けは付くものの、さらにそこから言われた番号の化粧品をさっと取り出すのは、容易いことではないだろう。
いかんせん同じ色の容器がそれぞれ20本ほどあるのだ。違いがあるとすれば区別するために蓋の形状が少しだけ違う程度。
普通の令嬢でも、せいぜい3,4本をその時のコンディションによって使い分ける程度だが、さすがそこはジークウェルトである。
曰く、少しの変化に対応出来ないと気が済まないとのこと。
だから同じものでもほんの少し成分が違うものを持つ必要があるのだと。
この仕事を口説かれながら覚えこなしていかねばならないとは。
朝っぱらから疲弊すること間違いなしだと、改めて歴代の騎士たちを憐れんだ。