堅物女騎士はオネエな魔術師団長の専属騎士になりました。
落ち着かすようにマリアベルの拳を両手で覆う。
ひんやりとした大きな手に包まれ、マリアベルはドキリと胸を跳ねらせた。
「いい?マリーちゃん。アタシが前に言ったこと覚えてる?」
「言ったこと?」
「そう。咄嗟に互いを守れるような人間しか専属騎士にはなれないという言葉。どちらかが守って守られての存在ではなく、どちらもお互いを守り合う存在でなければ専属騎士にはなれないの。どちらもそれなりに力はあるのだからうまく使えばいい。だからそこまで騎士の教えを守り抜こうとしないで。その考えは時に自身を滅ぼしてしまうことにもなりかねないのだから。時と場合よ?分かった?」
「時と場合……」
「騎士とは脅威から守る存在。でもアタシ達魔術師も同じ立場なの。だから互いが互いを守り合えばその力は何よりも屈強なものになるわ。……アナタはどこから見ても立派な騎士よ、自信を持って。反省することは大事だけど、だからと教えを固持しようと自分を追い込んではダメよ。分かった?」
なんと慈悲深い言葉だろうか。マリアベルは素直に頷く。
確かにマリアベルは真面目で頑なに教えを守ろうとするあたり、兄に指摘されることがあった。
『臨機応変に動くべきだ』と。教えを守ることは大事なことだが、それに執着し過ぎてもいけないと。
その時のマリアベルにはピンとこなかったが、今になってみればなんとなく分かる。
臨機応変というのはこういうことなのだ。
自身だけが守るべき存在ではなく、時には守られる場合もある。しかしそれを恥じてはならない。
互いに守り守られるからこそ、その力を発揮できることもあるのだ。