堅物女騎士はオネエな魔術師団長の専属騎士になりました。
ジークウェルトの綺麗でしなやかな指が、マリアベルの頬を撫でる。
「表情が曇ってる。待っている間、他の騎士たちに嫌なことでも言われた?」
マリアベルの心臓が大きく跳ねる。
(あれだけ必死に心を鎮め、落ち着いたと思ったのに。まさか表情に現れていたなんて。いや、それよりもまずは否定せねば!騎士たちは何もしていないのだから)
「い、いえっ!何も言われていませんっ!誰も一言も会話してませんから!」
「……そう?じゃあなぜそんな顔しているのかしら?」
「それは……」
マリアベルは口篭もる。
あの出来事をジークウェルトに語りたくはなかった。
そもそもジークウェルトに言うことではない。これはマリアベル自身の問題であって、ジークウェルトを巻き込む必要はない。
俯いて何も言わないマリアベルに、ジークウェルトは諦めたようにため息を零した。
「まあいいわ、言いたくないこともあるわよね。とりあえず部屋に戻りましょう」
足元がぐらりと揺れ、ジークウェルトの部屋に戻る。
寄せられた身体が離れ、俯いた顔を上げれば、ジークウェルトがじっとマリアベルを見ていた。
「今は何も聞かないけれど……、ひとりで抱えてはダメよ?」
少し切なげな表情に、マリアベルの胸がきゅっと締め付けられる。
「大丈夫です、申し訳ありません」