堅物女騎士はオネエな魔術師団長の専属騎士になりました。
団長室を出て、持ち場へと戻る。
任務となれば一切表情を崩さないマリアベルであったが、今回ばかりは少し浮かない表情だ。
突然の任務に不安にならないわけがない。
やると言ってしまった以上は、どのようなものであれこなさねばならない、が。
しかしマリアベルは使える主となる魔術師団長の姿を、これまでに見たことがなかった。
表立って行動する騎士団とは違い、魔術師団の面々はあまり人前に姿を現すことはない。
というのも、魔術師団の目的は魔術を以てでの他国からの防衛と国の安定を担う団であり、王家の影を担っている。
王家の影である以上、素性を知られるわけにはいかないのだ。
ゆえにどうしても人前に姿を見せなくてはいけない場合は、その姿を魔術で変化させているとも聞く。そのため、その人物が果たして本当の姿であるのかは、わからない場合が多いという。
ましてそんな魔術師団の長であるから、余計人の前には姿を現さない。
学園時代でもほぼ登校せず西塔で魔術の研究をしていたほどの徹底ぶり。それにも関わらず成績は常にトップだというのだから、恐ろしい話だ。
そのような偉大な方だ、さぞかし人なりも厳しいものだろう。
身がすくみそうになる。
とはいえ、今更色々と考えても仕方のない話だ。
マリアベルはふるふると頭を左右に振って、頭を切り替えた。
いつまでも悶々と考えていても仕方ない。とりあえず今は、与えられた任務にあたるだけだ。
まあ、なるようになるだろう。駄目ならば、またこの任務に戻るだけだろうし。
マリアベルはあまり深く考える性格ではなかった。
きりりとした表情に戻ると、淡々とその日の任務をこなした。