騎士のすれ違い求婚
1 プロローグ
✴︎プロローグ✴︎



王城に騎士たちが凱旋した。

澄み渡った青空。
人々の祝勝の気につつまれ、馬に跨る騎士が次々と城門をくぐり、一騎、また一騎と入城する。


その日。

ティアは、彼の姿を、城のバルコニーから遠く見つめていた。

騎士たちの先頭に立ち、この戦を勝利に導いたのは、26才の若さのジュシアノールだ。

彼は長年の脅威であった隣国との争いを、圧倒的に勝利した。その後、平和条約を結んで、たった今、帰城してきたのだ。

愛馬にまたがるジュシアノールの姿。
それは絵画のように美しかった。
彼の白銀の髪が日の光を浴びて、まるで彼自身が発光しているかのように眩しく、周りを照らす。
その存在は神々しく、人馬一体になって人々を魅了している。

救国の騎士。

「まぁ、わたくしのジュシアノールだわ」

とはしゃいだ声で第二王女が言った。
バルコニーの柵から身を乗り出すように彼の姿を見る王女の後ろで、ティアはようやっと、ほんの一瞬彼の銀色に光り輝く姿を目に捉えた。

「素敵だわ、素晴らしいわ、わたくしの騎士は」

王女の言葉がティアにつきささる。

ジュシアノールが帰還したことは、本当に安堵した。
彼の無事を幾日、どれほど天に願ったか。
しかし同時に、彼はその栄誉を手に帰国しまったために、ついにティアにとって『その時』を迎える事になるだろう。
彼の夢が叶う瞬間。
それはティアにとってはこの世の終わりののような時、それが近づいてしまったのだ。

あと、何日、いや何時間だろう⋯⋯ 。
この気持ちを持っていても許されるのは。

ただ、全てをかけて彼が好きなだけの気持ちを。


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