騎士のすれ違い求婚
2人の間の親しさがもどるのもすぐだった。
父と兄は争いに奔走していてほとんど帰ってこない。
家の警備がいつもより物々しい。
ジュシアノールは、庭に出る事も禁じられ、ひたすら屋敷の中にいた。
彼は今回の派閥争いを無関係に思っていた。
一派をたてる気など、さらさらあるわけない。
望んでもいないのに、巻き込まれ、しかし何もできず、かえって表に出るとややこしいだけだった。
自分の存在は、生まれた時からいらない余計なものだ。
厄介者のように、乳母と執事にひっそりと育てられ、身分もない。
存在しているのに、いないみたいに扱われていた。
なのに。
こんな時には生まれを利用され、果てには命まで狙われている。
「ティア。俺は騎士の称号を必ず得るよ」
強くジュシアノールが言った。
「得てどうするの? 」
「武勲をあげて、俺を認めさす。
欲しいんだ」
「⋯⋯ 」
彼の願いを、彼は熱い口調で語った。
「俺は家族が欲しい、俺だけの居場所が欲しい。ただ1人の女性と、つくるんだ。
そのために、必ず騎士になる。
信じろよティア」
じっとティアをみた。ティアは、その決意を滲ませた強い瞳に魅入った。
「俺が必ず頑張れるって」
「ジュノ様だから⋯⋯ 」
とティアは答えた。
「ジュノ様は、騎士になれるわ。
私のすべてをかけるわ。
すべてで信じる」
ジュシアノールはしばらくじっとティアを見つめていた。
それから少しからかうような口調に、なって、
「ティアの心をもらうよ、俺はティアの騎士になる」
「ジュノ様は、私の騎士になるのね。
ふふ、私のジュノ様ね」
屈託なく、本当に心から信じていつまで、あんな事を言っていたっけ⋯⋯ 。
ジュシアノールは、強い決意と同時に、何か強い感情をぐっと彼の心の底に押し込めるような目をしていた。
でも、優しく、ティアを見て笑ってくれていた。
その後、派閥争いは決着し、彼は、息子が早世した侯爵家の養子となり、名乗る爵位を得た。