騎士のすれ違い求婚
✴︎✴︎✴︎

  
現在、ティアは王宮で第二姫につかえている。

ティアが王宮にあがったのは、2年ほど前19才の時だった。
それまでは、母について領地の管理をするよう、さんざん鍛えられた。
デビューはしていたので、そのまま社交でもするのかと思っていたら、意外にも、父公爵に王宮の第二王女の女官をするよう命じられた。

正直、少し意外に思った。

気が抜けたと言うか⋯⋯ 。
多くの娘たちのように結婚をすすめられると思っていたのだ。
それをいかに断るか。

心の中にはジュノ様しかいない。

こんな気持ちで、今もこの先も、誰との話も聞きたくもないと思って構えていたのだ。

だから、少しほっとして、なんだか期限が伸びたような気がした。
それに、王宮だとジュノ様に会える機会が増えるのではないか、と単純に思っていたのだ。

ティアが王宮にあがる直前、兄とジュシアノールが屋敷に立ち寄った。
ティアがジュシアノールと2人きりで話せたのは、この時が最後だった。  

この同じ中庭。

ジュシアノールの近況を聞き、ティアのこれからの城仕えを話していた時。
落ちてきた葉を同時に拾おうとして、ふと彼の手が触れた。
その骨張った大きな手、
鍛えた、大事な物を守る大きな手。

背が見上げるほど大きくなって、鍛えられたその体、なのに、幼い日の色の白さと、大きな目に、昔からの彼の姿がある。
その低い声は『ティア』と優しく名前を呼んでくれていた。

(私の)

と心の中で付け加えてから、彼の名を呼ぶ。

「ジュノ様」

ジュシアノールはティアを真っ直ぐに見て、触れた手をそっと握った。
それを彼の唇に寄せた。
指に、彼の熱と、唇を、触れるか触れないのか、微かに息を感じ、ティアは彼に魅入り、時がとまる。

「必ず⋯⋯ 」

とジュシアノールが決意を秘めたように囁いた。

その続きは?
必ず、の続きは?




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