騎士のすれ違い求婚
✴︎


公爵家の屋敷は、来るたび、いつも変わらず彼をあたたかくむかえてくれていた。
ここは、包み込むような優しい穏やかな気が満ちている。

あの日、命を狙われてようやくたどり着いたこの家。
玄関に転がるように飛び出してきて、真っ直ぐに嬉しそうに迎え入れてくれたティアを思う。
彼女は、くったくなく、真っ直ぐに、明るく自分を照らした。

今でもその姿が眼裏にはっきりと焼き付いている。

庶子であり、常に見張られ、使えるか使えないかだけで見られていた自分は、はじめて一人の人間として愛情をうけた。
使用人たちもジュシアノールに普通に接する。
自分たちの主人に仕えるのと同じように、真面目に、一生懸命、誠意を持ってくれた。

要らない人間だと、生きる希望も持てず、このまま死ぬしかないのかと思っていた自分だった。
ここは彼が今までで知る唯一の家で、そしてティアのいる家だった。

郊外というほどではない、王都のほど近くに広がる領地は、代々王家の要職についていた先祖から受け継がれている。
ティアの父親は、最も王に近い側近の立場ににいる。
その長男とジュシアノールは共に同じ信念を持っている。
国を、王子を、守る、そしてそれは愛する家族を守る事なのだと。


ドアを叩いたら、よく見知った執事が驚きながら出迎えてくれた。

「この度は、本当に、ご立派な活躍を」

「すまぬ、このような急な訪問になり⋯⋯ 。
ティア嬢に用事があるのだが、こちらに戻ってこられてはいないだろうか」

「先ほど急に帰ってこられました」

ばあやや、そのほかの使用人もあわてて出てきた。

みな久しぶりの人たち、あの時、ジュシアノールに親切にしてくれた皆の、驚きながら、誇らしく、優しく、変わらず見守ってくれる皆に心があたたかくなった。

が、今は、ただ、ティアにいち早く会いたいのだった。

「あら、お嬢さまは? 」
「お嬢さまなら、庭園に行かれて、」
「泣いていらしたから、声がかれられなくて」

口々に聞く言葉を聞きながら、すぐに、あわて庭園にむかった。

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