騎士のすれ違い求婚
2 騎士の願い
✴︎騎士の願い✴︎
大広間は熱気に包まれていた。
(帰国されたばかりなのに)
とティアは心配になる。
体を労って欲しいと思う。
先ほど隣国との国境の地から戻ったばかりの騎士たちは、泥を落とす間もなく、混み合う大広間で人々の大歓迎を受けていた。
王座にはこの国の王が座り、その息子の第一王子と、第二王女がならぶ。
第一王女は先ごろ隣国に輿入れされ、艶やかな金髪の第二王女が、騎士たちの出迎えに花を添えていた。
もちろん要職につくティアの父公爵と兄の姿も、王の後ろに見えた。
第二王女の女官をしているティアは、貴族たちに混ざって後ろの方でその場を見つめていた。
この戦の功労者。
「ジュシアノールよ」
彼が、王に名を呼ばれて、一気に騒ぎが鎮まり人垣が割れる。
その割れた中央の花道に、彼が傅く。
人々の集中が彼と王に集まり、水を打ったように静かになった。
王の力強い言葉が、石造の城の壁に冴え冴えと響く。
「この度は、国を救い、よくぞ素晴らしい結果をもたらせた」
「ありがたきお言葉」
ジュシアノールの声も凛と響いた。
ティアは心が震えた。
彼の声だった。
低音の硬質な彼の声だ。
「そなたが平定した国境の地を、領地として代々そなたに授ける。
辺境伯として我に仕えるがいい」
やっと、彼の夢が叶った。
これが彼の望んでいた事だった。
彼は自分が安住する地をずっと求めていたから。
それが今、叶ったのだ。
しかも、自らの実力だけで。
跪くジュシアノールに、王は続けた。
「それとは別に、功績をたたえ、好きなものを褒美として与えよう。
何が欲しいか申すが良い」
「はい、それでは、とある御令嬢を。
彼女を生涯ただ1人の妻として、
賜った国境の我が地を預かり、国の守りとして共に王に仕えるお許しいただきたい」
広間があっと息を呑む。
その相手は皆が知っている事だからだ。
ついにと、やはりという空気が広間に満ちる。
ティアは、息がとまったかと思った。
その瞬間は思っていたより、こんなにすぐだったのだ。
最後の時。
終わりの宣告。
後ろの方に立っていたティアにも、迷いのない、間髪入れずに答えた彼の凛とした声がはっきりと聞こえた。
まっすぐに真摯にその人だけを思う彼の姿だった。
何年もかけて、やっと愛する人を手に入れる。
彼の夢が叶う瞬間。
ティアはもう、その場に立ってはいられなかった。
大きな歓声と人々の興奮を背に。
ティアは静かにヨロヨロと部屋を出て、王女の部屋に一人戻った。
大広間は熱気に包まれていた。
(帰国されたばかりなのに)
とティアは心配になる。
体を労って欲しいと思う。
先ほど隣国との国境の地から戻ったばかりの騎士たちは、泥を落とす間もなく、混み合う大広間で人々の大歓迎を受けていた。
王座にはこの国の王が座り、その息子の第一王子と、第二王女がならぶ。
第一王女は先ごろ隣国に輿入れされ、艶やかな金髪の第二王女が、騎士たちの出迎えに花を添えていた。
もちろん要職につくティアの父公爵と兄の姿も、王の後ろに見えた。
第二王女の女官をしているティアは、貴族たちに混ざって後ろの方でその場を見つめていた。
この戦の功労者。
「ジュシアノールよ」
彼が、王に名を呼ばれて、一気に騒ぎが鎮まり人垣が割れる。
その割れた中央の花道に、彼が傅く。
人々の集中が彼と王に集まり、水を打ったように静かになった。
王の力強い言葉が、石造の城の壁に冴え冴えと響く。
「この度は、国を救い、よくぞ素晴らしい結果をもたらせた」
「ありがたきお言葉」
ジュシアノールの声も凛と響いた。
ティアは心が震えた。
彼の声だった。
低音の硬質な彼の声だ。
「そなたが平定した国境の地を、領地として代々そなたに授ける。
辺境伯として我に仕えるがいい」
やっと、彼の夢が叶った。
これが彼の望んでいた事だった。
彼は自分が安住する地をずっと求めていたから。
それが今、叶ったのだ。
しかも、自らの実力だけで。
跪くジュシアノールに、王は続けた。
「それとは別に、功績をたたえ、好きなものを褒美として与えよう。
何が欲しいか申すが良い」
「はい、それでは、とある御令嬢を。
彼女を生涯ただ1人の妻として、
賜った国境の我が地を預かり、国の守りとして共に王に仕えるお許しいただきたい」
広間があっと息を呑む。
その相手は皆が知っている事だからだ。
ついにと、やはりという空気が広間に満ちる。
ティアは、息がとまったかと思った。
その瞬間は思っていたより、こんなにすぐだったのだ。
最後の時。
終わりの宣告。
後ろの方に立っていたティアにも、迷いのない、間髪入れずに答えた彼の凛とした声がはっきりと聞こえた。
まっすぐに真摯にその人だけを思う彼の姿だった。
何年もかけて、やっと愛する人を手に入れる。
彼の夢が叶う瞬間。
ティアはもう、その場に立ってはいられなかった。
大きな歓声と人々の興奮を背に。
ティアは静かにヨロヨロと部屋を出て、王女の部屋に一人戻った。