騎士のすれ違い求婚


「もしかして、俺が嫌なのか? 」

低くて冷たい声。
ジュシアノールが木の下からティアに語りかけた。

彼は見た目より声が低い。
もっと、天使のように柔らかく話すのではないかと皆想像している。

しかし案外と硬質な低い声で、ティアの兄よりずっと男らしい。ぞんざいな言葉を使い、自らを俺と呼ぶのだ。

彼の声は⋯⋯ 。

そして、この声は、低く甘くティアの名を呼ぶはずだのに。

現実がティアを切りつける。
木の下のジュシアノールと目が合った。

「い、嫌です、
姫さまと結婚するようなあなたには、2度とそんな風に優しくされたくない。
いえ⋯⋯
ちがう⋯⋯
そんな風でも、こんな一瞬でも、ここにいてほしい、
もういっそ、その声で、この苦しさで、切り刻んで。跡形もなく、心も散り散りになれば、この痛みから逃れられるのかもしれません。跡形も無くして行ってください」

ティアの言葉は止まらなかった。

「あなたの無事を心から願いながら、でも、そうやって栄誉を手にされたのを喜べない、
あなたの幸せを何より願うはずが、うまくいかなければいいと恨む、こんなわたし消えてなくなればいい」

「なぜ、そのようなことを思われていたのだ? 
なぜ。王女の話が出てくる? 」

と少し怒ったような声で、彼は言った。

「なぜ? 皆知っています。
だって、あなたは⋯⋯ 」

「今、俺がここにきた。
その意味がわからぬはずがないだろう。
王女と結婚する気は微塵もない。
誤解を与えるようなことはしたことがないが、なぜ、みながそのように思っているのだ? 」

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