騎士のすれ違い求婚
⋯⋯ と、
急にジュシアノールが、少し慌てて二人の間に間を開ける。
「あ⋯⋯ 俺、身を清めないと⋯⋯ 。
国境から三日三晩、馬を飛ばしてそのままだ、悪い」
そう言う彼は、しかし不思議と、いま、綺麗な水で、丁寧に洗ったかのように、冴え冴えと綺麗なのだった。
(エルフみたいに)
ティアは思わず笑ってしまった。
こんなに綺麗なのに。
彼はいつだって人外のように綺麗だ。
しかし、急いでティアを探し回った彼の額には、よく見たら汗が光っているし、触れる手は、剣を持つ男の人の、鍛えてかたく、少し乾いてざらっとふしくれだっていて、現実的だった。
「手だけは洗ったが⋯⋯ 」
と申し訳なさそうに言った。
どうして、この彼の温度を忘れていたのか
ティアを守るこの温度を。
彼もティアの解けるような表情を見て、優しく笑った。
まだ、残っていた涙を、人差し指の関節で、そっとぬぐう。
ティアの顔には、愛だけがあふれていた。
「もう、何年も夢にまで見たあなたの唇を、何年も狂おしく思い描いた、もう、我慢しなくていいだろうか、これだけは味わわせてくれ⋯⋯ 」