騎士のすれ違い求婚
9 エピローグ
✴︎エピローグ✴︎
「どういう事?
彼は不実ですわ!
わたくしに贈り物をしておいて!
それにしても、あのようなお話の仕方、怖いわ。あんな人だったのね。
不実で恐ろしい⋯⋯ 。
わたくしを裏切った、あの浮気者を罰してください! 」
「何を言っておるのだ⋯⋯ 」
「いいえ! 贈り物をいただきました! 」
「勘違いではないのか姫よ⋯⋯
女官長? 」
「はい、いえ⋯⋯ ですから、あれほど、宛名をお読みくださいと、申しましたのに⋯⋯ 」
「えっ? 」
第2王女は、まぁるく目を見開いて可愛らしく驚いた。
自らの思っている事に、全く何の疑いを持った事のない王女の澄み切った心だった。
「あれは、すべて、姫さま宛ではありません⋯⋯ 」
「何ですって⁈ 嘘よ! 」
「⋯⋯ ティア様宛てでした」
実は。
王女はお勉強の時間に、素直に行動されすぎたため、少し⋯⋯ 信じられないことに、母国語ですら読むのが得意ではないのだ。
「じゃ、わたくしは横から贈り物をとってしまっていたの? 」
と首を傾げた。
「⋯⋯ 」
その場の皆が押し黙り、父王が明るく言う。
「ははは、これにこりて、思慮深くいたせ。
それでは、皆に嫌われてしまうぞ、姫よ」
「だって! 」
「そのような浅はかさは自らに返ってくるだろう?
ジュシアノールは、何年も前から申しておった、疑いようもない。
そのお前の誤解すら我々は知らなかったのだから、全てお前の勘違いだ」
(勘違いのはずないわ)
と思いながら、周りをみれば、1人の近衛騎士が心配そうに見ているではないか⋯⋯ 。
「まあ、」
と王女は頬をを染める。
騎士はとたんにビクッとした。
「何だ姫? 」
「あの方、わたくしを思っていらっしゃるのではないかしら? 」
「はぁ? 」
王が、王女をギロッと睨んだ。
しかし、可哀想にも思い当たる騎士が、ひれ伏した。
「発言を許す」
「申し訳ございません! 私、婚約者のいる身で⋯⋯ 。恐れ多くも、目を、目を開けていただけなのです⋯⋯ 」
悲壮な騎士の声。
父王は大きなため息をついた。
「⋯⋯ これでは、まるで呪いをかける魔女のようではないか⋯⋯ 」
「やだ、み〜んなわたくしを好きなのではなくて? 」
横で聞いていた兄の王子も、これからの妹への責任感で、暗澹たる気持ちになり、重く重くため息をついた。
父王が言葉を失う。
「お前は⋯⋯ 」
王女は全く悪いと思ってもいない。
「女官長! 今後、きちんと教育するように、他国に嫁にもやれん!
これでは争いの火種を撒き散らす事になってしまうではないか」
父王は、だんだんと声が大きくなる、その場の皆の気持ちは、沈んでいく。
「可愛らしく純粋なのは美点だが、この年齢でこうも天真爛漫なのは、かなり問題があろう。
字も碌に読めないだと⁈
皆、遠慮せずに、きちんと道理を諭すのだ!
しつけてくれる婚約者を早急にさがすのだ、我こそはと思う者、申し出るのだ
姫を降嫁させる!
他国から申し込みがあったからでは遅い」
皆。
白羽の矢が立つのを恐れて、誰も顔を上げなかった。
「領地も、持参金もはずむぞ! 」
王の魅力的な申し出。
しかも王女は、金の髪を持つ美しい女性だ。
しかし、それは命あってのこと。
進んで諍いの種をかかえこもうとは、なかなか思えない。
しかも男女の諍いほど、根が深く大事になってしまうものだ。
命をかけて国を守り、愛する人のためだけに長年一途に生きていたジュシアノールでさえ、あの言われようなのだ。
勝手な浅はかな王女の思い込みで、危うく引き裂かれ無邪気に陥れられるところだった。
何年も隙なく手回しをしてきた彼だから、今回は疑いようもなかった。
父王や兄がいる場で助かったが、もし、いなかったら⋯⋯ しかし、やはり王女はこの場の誰よりも一番上の立場なのだ。
目があったというだけで、人生をあっけなく変えられてしまうのは恐怖でしかない。
しかも、悪意がなく全くの無邪気にそう思っているのは、王女の理解を得ることが出来ないのだから。
この場にいる誰もが、恐怖を感じていた。他人事ではない。
女官だって、いつ何時、どのような思い込みがふりかかるか分からない。
恐ろしい生涯の争いの種を迎え入れるのには、地位やお金より、命の安全と穏やかな日常の方がのほうが、やはり大事なのだった。
王は深いため息をつきながら、
「誰かさがすのだ、早急に! 」
と命じたのだった。
✴︎✴︎✴︎END✴︎✴︎✴︎
「どういう事?
彼は不実ですわ!
わたくしに贈り物をしておいて!
それにしても、あのようなお話の仕方、怖いわ。あんな人だったのね。
不実で恐ろしい⋯⋯ 。
わたくしを裏切った、あの浮気者を罰してください! 」
「何を言っておるのだ⋯⋯ 」
「いいえ! 贈り物をいただきました! 」
「勘違いではないのか姫よ⋯⋯
女官長? 」
「はい、いえ⋯⋯ ですから、あれほど、宛名をお読みくださいと、申しましたのに⋯⋯ 」
「えっ? 」
第2王女は、まぁるく目を見開いて可愛らしく驚いた。
自らの思っている事に、全く何の疑いを持った事のない王女の澄み切った心だった。
「あれは、すべて、姫さま宛ではありません⋯⋯ 」
「何ですって⁈ 嘘よ! 」
「⋯⋯ ティア様宛てでした」
実は。
王女はお勉強の時間に、素直に行動されすぎたため、少し⋯⋯ 信じられないことに、母国語ですら読むのが得意ではないのだ。
「じゃ、わたくしは横から贈り物をとってしまっていたの? 」
と首を傾げた。
「⋯⋯ 」
その場の皆が押し黙り、父王が明るく言う。
「ははは、これにこりて、思慮深くいたせ。
それでは、皆に嫌われてしまうぞ、姫よ」
「だって! 」
「そのような浅はかさは自らに返ってくるだろう?
ジュシアノールは、何年も前から申しておった、疑いようもない。
そのお前の誤解すら我々は知らなかったのだから、全てお前の勘違いだ」
(勘違いのはずないわ)
と思いながら、周りをみれば、1人の近衛騎士が心配そうに見ているではないか⋯⋯ 。
「まあ、」
と王女は頬をを染める。
騎士はとたんにビクッとした。
「何だ姫? 」
「あの方、わたくしを思っていらっしゃるのではないかしら? 」
「はぁ? 」
王が、王女をギロッと睨んだ。
しかし、可哀想にも思い当たる騎士が、ひれ伏した。
「発言を許す」
「申し訳ございません! 私、婚約者のいる身で⋯⋯ 。恐れ多くも、目を、目を開けていただけなのです⋯⋯ 」
悲壮な騎士の声。
父王は大きなため息をついた。
「⋯⋯ これでは、まるで呪いをかける魔女のようではないか⋯⋯ 」
「やだ、み〜んなわたくしを好きなのではなくて? 」
横で聞いていた兄の王子も、これからの妹への責任感で、暗澹たる気持ちになり、重く重くため息をついた。
父王が言葉を失う。
「お前は⋯⋯ 」
王女は全く悪いと思ってもいない。
「女官長! 今後、きちんと教育するように、他国に嫁にもやれん!
これでは争いの火種を撒き散らす事になってしまうではないか」
父王は、だんだんと声が大きくなる、その場の皆の気持ちは、沈んでいく。
「可愛らしく純粋なのは美点だが、この年齢でこうも天真爛漫なのは、かなり問題があろう。
字も碌に読めないだと⁈
皆、遠慮せずに、きちんと道理を諭すのだ!
しつけてくれる婚約者を早急にさがすのだ、我こそはと思う者、申し出るのだ
姫を降嫁させる!
他国から申し込みがあったからでは遅い」
皆。
白羽の矢が立つのを恐れて、誰も顔を上げなかった。
「領地も、持参金もはずむぞ! 」
王の魅力的な申し出。
しかも王女は、金の髪を持つ美しい女性だ。
しかし、それは命あってのこと。
進んで諍いの種をかかえこもうとは、なかなか思えない。
しかも男女の諍いほど、根が深く大事になってしまうものだ。
命をかけて国を守り、愛する人のためだけに長年一途に生きていたジュシアノールでさえ、あの言われようなのだ。
勝手な浅はかな王女の思い込みで、危うく引き裂かれ無邪気に陥れられるところだった。
何年も隙なく手回しをしてきた彼だから、今回は疑いようもなかった。
父王や兄がいる場で助かったが、もし、いなかったら⋯⋯ しかし、やはり王女はこの場の誰よりも一番上の立場なのだ。
目があったというだけで、人生をあっけなく変えられてしまうのは恐怖でしかない。
しかも、悪意がなく全くの無邪気にそう思っているのは、王女の理解を得ることが出来ないのだから。
この場にいる誰もが、恐怖を感じていた。他人事ではない。
女官だって、いつ何時、どのような思い込みがふりかかるか分からない。
恐ろしい生涯の争いの種を迎え入れるのには、地位やお金より、命の安全と穏やかな日常の方がのほうが、やはり大事なのだった。
王は深いため息をつきながら、
「誰かさがすのだ、早急に! 」
と命じたのだった。
✴︎✴︎✴︎END✴︎✴︎✴︎