騎士のすれ違い求婚
5 砕け散った令嬢の心
✴︎砕け散った令嬢の心✴︎



ジュシアノールは、ティアの家で過ごしていた時期があった。

複雑な生い立ちに、目立たず密かに暮らしていたジュシアノールだったが、数年前に起こった高位貴族の派閥争いにまきこまれ、命を狙われたのだ。
ティアの父親の公爵が匿っていたとは後から聞いた事だった。

ジュシアノールは19才。
ティアは15才だった。

幼い頃はよく遊びに来ていたジュシアノールだったが、兄と共に従騎士になってからは何年も会っていなかった。

そうして数年ぶりに会った19才の彼は、知らない大人みたいになっていた。

背が驚くほど高くなっていた。
骨格も見違えるほどたくましい。
目ばかりの目立つ顔は、精悍な冴え冴えとした整った顔になっていた。
鍛えた体は、幼い時の人形のような子ではもはやない。
逞しく滑らかな筋肉に、知的な鋭い眼差し。

生まれの良さと資質の良さ、
身を削るような努力。
そして、何か、憧れのように彼が強く求めるものを原動力とする強さ。

戸惑い、湧き上がるような恥ずかしい気持ちが込み上げ、ティアは小さく、

「ジュノ様⋯⋯ 、」

と吐息と共に、彼の名を発音した。

「なに? ティア」

彼は聞いたことのない落ち着いた、甘い、低い、それでいて透き通るような硬質な男の人の声で答えた。

昔から⋯⋯ おそらく初めて会った時からの気持ちが、はっきり形になっていく⋯⋯ 。

ティアのもう、心は、ほぼジュノ様でしめられていたが、それが何年もかけて根を張り、そして再会した彼はもっと、ティアの全てになっていた。

< 9 / 30 >

この作品をシェア

pagetop