落ちこぼれ歌手の秘密の恋愛
朝から学校へと登校した私は、眠くても必死で起きて、しっかりと授業を受けていた。授業を受けていれば時間が経つのはすぐで、もうお昼の時間だった。

さすがにKanaeとしての姿を学校で見せることはないので、地味を装っている。そのためか、友達がいない。

なので、一緒にお昼を食べる友人もいなくて、いつも一人、高等部の屋上で食べるか歌の練習をしている。

私の通う篠川学園は中高一貫校なので、敷地も広く校舎も多い。お昼に屋上に来る生徒は少ないのだ。

「    」

小さな声ではあるが、しっかりと日ごろのレッスンで習っていることを意識して声を出す。

「  」

フッと息を吐いて、ワンコーラス分、歌い終わって。やっぱり自分の声は好きじゃないと思った。

売れているアイドル達みたいに可愛い声じゃないし、顔だって可愛くない。やっぱり私が売れるのは無理だったんだと、気分が落ち込んでいく。

「俺、アンタの歌声が好きだよ」

「え……?」

「もっと、聞きたいって思える、素敵な歌声だ」

偽物の黒髪を振り乱す勢いで後ろを振り向いた。そこには、高等部の狼王子と名高い、イケメンと評判の向坂伊織(さきさかいおり)先輩がいて。校内の情報に疎い私でも、知っている先輩。

いつも決まった人としか一緒にいない、女子なんて近づけもしない、孤高の人。イケメンだからと言ってそれを笠に着ることもなく、落ち着いた人。

「そん、なこと、初めて言われました」

「そう? 俺は好きだよ、今の曲も、声と良い感じにあってる」

さっき歌った歌は、今までで一番売り上げが悪かったCDの中に収録されているメイン楽曲。気持ちを込めて、最大限、自分なりに歌詞の解釈をして歌ったつもりだった。

レッスンの先生だって、太鼓判を押してくれたのに。楽曲を提供してくれた人は、私のセカンドシングルからずっと提供してくれている、お世話になっている人。会ったことはないし、直接何かのやり取りをしたことも、私はないけど、こんな売れない歌手に楽曲を提供してくれる優しい人。

それなのに、世に出しても、たくさんの人に聞いてもらえない。こんなにも素敵な歌なのに、手に取ってもらえなくて悔しい。

「君の歌声が、今の曲をさらにいいものにしている。今の曲は、君の歌声で輝いていた」

はらり、と涙が零れ落ちた。そうやって言ってくれる人が、周囲には誰もいなかったから。マネージャーはよかったよ、って褒めてくれる。でもそのほかの人たちは、何の反応もなくて。

CDはいくつか売れているみたいだけど、お店に流通させられるほど売れないので事務所の公式サイトに通販リンクを張り付けて、マネージャーが発送準備までしてくれる。そう、自家通販みたいなことになっているのだ。

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