託宣が下りました。
プロローグ
 みなさまこんにちは。わたくし、アルテナ・リリーフォンスと申します。
 突然ですが先日、星の託宣がくだりました。

「騎士ヴァイス・フォーライク、巫女アルテナ・リリーフォンスの間に生まれし子は、国の救世主となるだろう」

 ……その日以来、わたくしは日々騎士ヴァイスに追いかけられております。ええそれはもうしつこく。食事のときも勉強のときも果てには就寝のときまで、気持ちの休まるときがありません。唯一気が安らぐのは、巫女以外入室を禁止されている祈りの間にいるときでしょうか。わたくしはもうこの部屋で生涯を過ごしたいくらいです。

 なぜ、追いかけられるのか?
 簡単です。わたくしが逃げているからです。

 なぜ、逃げるのか?
 簡単です。わたくしは男性が嫌いなのです。

 いえ、言葉が正しくないですね。正しく言い直しましょう――わたくしは、騎士ヴァイス・フォーライクが嫌いなのです。
 大嫌いなのです。

 元々男性は苦手です。世間様に主張できるほどの理由はありません。しいて言うならば、男性の本能的な『強さ』が苦手です。

 でもそれは彼らのせいではありません。かと言って、無理をして男性に慣れる必要性も感じませんでしたので、わたくしは巫女になることを選びました。巫女は生涯独身で過ごします。美しい身のまま星に祈りを捧げ、星の声を聞くことに人生を捧げます。

 この星の国エバーストーンにおいて、これほど高潔な職はありません。わたくしはこの身に誇りを持っております。

 ただ、星に関わる仕事には男性もおりますので、修道院自体は男子禁制ではありません。

 彼らはあくまで星に祈る仲間です。そう思うとわたくしも、彼らに対する緊張も少しやわらぎます。そのことが嬉しくもあり、この生活にますます満足していたのです。

 だというのに。

「巫女よ。なぜ逃げる?」
「窓から入ってこようとする人など、受け入れられません」
「しかし何もモップで撃退しようとしなくとも」
「ちょうど掃除の時間に現れたあなたが悪いのです」
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