託宣が下りました。
 勇者様はわたくしの前にいるままで、離れていく騎士に話しかけます。何だか変な構図です。

「だいたいお前、星の巫女殿に求婚しようというのになぜ修道院について学ぼうとしなかった? その時点で不誠実だぞ」

 さすが勇者様、何てまともなお言葉!
 きっとさっきの辛辣な言葉はわたくしの気のせいだったのでしょう。勇者様はまともです。

 いやー、と、振り返った騎士は眉尻を下げました。

「そんなこと言ったって、巫女は俺の妻になるのだろう。すぐに修道院から出ることになるじゃないか」
「人の過去の積み重ねを全部無視すると? 修道院を出たからと言って、彼女が菜食主義を止めるとは限らん」

 そう、そうなんです。
 菜食主義とはとても難しいものです。修道院は一言で「菜食」などと申しますが、わたくし個人の感想を言えば、生命を口にすることは決して罪ではありません。
 そもそも植物には生命がないのか……という根本的な問題にも行き着いてしまいます。

 わたくしはその意味でとても中途半端です。修道院に入る前には、ふつうにお肉やお魚も食べておりました。例えば修道長アンナ様のように菜食主義にこだわりがあるのかと言えば、そうとも言えないかもしれません。

 ただ……

 わたくしはどうしても、「原型を留めている」生物を食べることができないのです。

 そしてその時点で――その自分の卑怯さ、卑小さを感じるにつけ――わたくしには生命を食べる資格はないのだと、思うのです。
 修道院で自ずと気づいたこの思い。だから今のわたくしはたぶん、修道院を出ることになっても簡単には菜食を止めません。

 勇者様はさらに言います。

「お前の行為は一方的な気持ちの押しつけだ。巫女殿は迷惑しているんだ。いい加減理解しろ」
「いやしかし、俺の気持ちを表現しないのは不誠実だと」
「押・し・つ・け・だ。彼女の生活を害することのどこが誠実だと?」

 ああ……!

 ようやくまともなわたくしの味方が現れました! 今まではアンナ様のように「逃げるな」と言う人か、シェーラのように「悪くないと思う」と言う人か……そうでなければ「偽託宣を下しやがって」の人しかおりませんでした。

 ようやくわたくしの味方が! わたくしの気持ちにそって結婚に反対してくれる人が――
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