託宣が下りました。
「こうして手であっためる。熱が起動のスイッチになってる。そうして――ほら!」

 手を放すと、ぴょん! とネズミがソラさんの手から飛び出しました。

「きゃっ……」

 スカートにのっかられ、わたくしは思わず手で払ってしまいました。

 払いのけたネズミは動かずぐったり倒れたまま。どうやら魔力で動かしているわけではなさそうです。

 ソラさんがえっへんと胸を張りました。

「私が発明したびっくりネズミは、魔力のない人間でも使える! 巫女でも使えるぞ。どうだ、すごいだろう」
「え、ええと」

 すごい、とは思いますが……

 いったい何に使えばいいのか。いまいち分からず、わたくしは返答に窮しました。

 ソラさんはベッドの上でぴょんぴょん飛びはね力説しました。

「魔術はすごいんだぞ。他にも瞬間移動したり、他人に自分の位置を報せたり、遠くにあるものを引き寄せたりできるんだ!」
「ソラさん座って。……ソラさんもできるの? その……瞬間移動とか」
「それはできない! 他ならできる」
「自分の位置を報せるとか?」
「できるが怪我をする!」
「……遠くにあるものを引き寄せたりとか?」
「1m以内のものなら!」

 それは手が届いてしまうのでは。

 要するに、まだ彼女は幼い、という話です。

 その上わたくしの言う通り大人しく座ったソラさんが何だか微笑ましくて、わたくしはつい彼女の頭を撫でてしまいました。

「こらっ! 人の頭に軽々しく触れるな!」
「あっ、ごめんなさい」
「だが本当の姉になるなら許すぞ、どうだ?」
「――」

 ソラさんが期待するような目でわたくしを見上げます。

 彼女の姉になる――。
 それはつまり、騎士と結婚するということです。

「……ソラさん。わたくしは、騎士とは結婚する気はないの」
「なぜだ。託宣をたがえる気か?」
「託宣は却下されたのよ。知らない?」
「知ってる。だがあれは王宮が決めたことであって、星の託宣の正当性は変わらない」

 ソラさんはきっぱりと言いました。

 正当性は変わらない――?

(……久しぶりに聞いた、そんな言葉)

 それはわたくしまでが忘れかけていた、とても大切なこと。

 胸があたたかさであふれ、知らず涙がこぼれそうになります。わたくしは慌てて目元をぬぐいました。
< 115 / 485 >

この作品をシェア

pagetop