託宣が下りました。
 ソラさんがようやく寝入ってから少し――

 そろそろ深夜になろうという時間になっても、わたくしは眠れずにいました。

 打ち身の痛みに関しては、だいぶよくなりました。むしろ体が軽く感じるくらいです。きっとリリン草の薬がよく効いたのでしょう。調合したのはカイ様とのことですが、さすがです。

 けれど……。

 心の疲れには、もう少しなのでしょうか。それとも薬の効果を上回る疲れだったのでしょうか。

 わたくしはベッドに体を押し込め、ため息をつきました。

(今日も色々あった……)

 ラケシスと再会し、馬車を襲われ、カイ様とソラさんに会い、この国の暗部のようなものに触れ――

 これほど濃い一日も滅多にありません。
 それなのに、心のどこかが空虚。

 命を狙われる。そんな物語のような話が現実に起こった。あのときの恐怖も残った打ち身も本物なのに、自分のことのように思えません。
 今日起こった何もかもが私のものではないようで、心の中に実感として居着いてくれないのです。

(………)

 枕元のランプの火を落とす気にもなれず、ずっと点けっぱなしにしています。

 そう言えばいつぞやのシェーラは、別荘でこんな気分だったのでしょうか。
 無理やりつれてこられた別荘で、眠らず魔術の本を読んでいたシェーラ。わたくしも本を持っていれば良かった――今さらながらに悔やみます。

 と。

 ごとっ、と奇妙な音がしました。
 窓です。締め切られた木の窓に、外から何かがぶつかったような音……

(まさか――刺客?)

 すぐにエリシャヴェーラ様のことを考え、違うと否定しました。刺客なら音など立てません。
 そもそもここは二階です。人が窓から来るわけがない――。

 それでは、今のは何? 風でも吹いて物が当たったのでしょうか。
 わたくしは息を殺し、もう一度ベッドに潜り込もうとしました。しかし。

 ごとっ。再び同じ音。

「―――」

 わたくしはおそるおそるベッドから体を起こしました。

()()()()()……?)

 ランプの小さな灯りを頼りにソラさんのベッドの周りを探り、一回り大きなネズミを探し当てます。

(お、おかしなことがあったらこのネズミを使おう)

 両のてのひらで包むように持ちながら、わたくしは勇気を奮い立たせ窓に近づきました。
 そして。

 バタン。勢いよく窓を開けると、目の前に人影が――!
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