託宣が下りました。
「巫女!」
「ひっ――」
思わずネズミから手を放すと、ネズミはたがわず目の前の人影に飛びかかりました。
「どわあっ!?」
目的は達成されました。驚いた人影は掴まっていた場所を手放してしまったのか、そのまま落下していきました。
………。
なかったことに、しようかな。
そんな思いがわたくしの脳裏をかすめましたが、人ひとり落下しています。少しは心配しなくては。
ですが、わたくしの中に妙な確信があったのです。“彼が”、こんなことくらいで怪我をするわけがないと。
……それなら。
「では、ごきげんよう」
わたくしは安心して窓を閉めようとしました。
「待て待て待て!」
声が追いかけてきます。下から上へ。猛然と上がってきます。
真っ暗な中に、大きな樹があるのが分かりました。人影はその幹を器用に登ってきているのです。
そして、
「ひどいだろういくらなんでも。『勇者の片腕、妹のいたずら道具に驚いて死亡』とか目も当てられんぞ。他人事なら大笑いだが」
「騎士のこともきっと誰かが笑ってくれますよ。というわけでさようなら」
「だから待て。待ってくれ頼む」
木の枝に両手でぶらさがって――
騎士ヴァイスは暗闇の中、ぶらんぶらんしながらわたくしに訴えました。
「せっかく来たんだからせめてもう少し話を」
「今日は来ないと仰っていましたよね?」
わたくしはランプを持って窓に戻ってきました。そして、騎士を責める気持ちでにらみました。
すると、
「いや今日は来るつもりはなかったんだが、カイのやつが巫女が怪我したと報せてきたもので――。大丈夫か?」
「………」
わたくしはむうとうなりました。こういうときの騎士は本当に心配そうな顔をします。ずるいです。
「……カイ様のお薬のおかげでだいぶ痛みは取れました。大丈夫です」
ご心配ありがとう――神妙に頭を下げると、騎士は嬉しそうに笑いました。ぶらぶらしたまま。
「それは重畳! っと、あまり大声を出してはソラが起きるな」
慌てて声をひそめます。
ただでさえ声の大きい人です。もうとっくにソラさんが起きてもおかしくないほどですが、幸いベッドのソラさんに動きはありません。
それにしても声を抑えた騎士、なんて。貴重すぎやしませんか。
「ひっ――」
思わずネズミから手を放すと、ネズミはたがわず目の前の人影に飛びかかりました。
「どわあっ!?」
目的は達成されました。驚いた人影は掴まっていた場所を手放してしまったのか、そのまま落下していきました。
………。
なかったことに、しようかな。
そんな思いがわたくしの脳裏をかすめましたが、人ひとり落下しています。少しは心配しなくては。
ですが、わたくしの中に妙な確信があったのです。“彼が”、こんなことくらいで怪我をするわけがないと。
……それなら。
「では、ごきげんよう」
わたくしは安心して窓を閉めようとしました。
「待て待て待て!」
声が追いかけてきます。下から上へ。猛然と上がってきます。
真っ暗な中に、大きな樹があるのが分かりました。人影はその幹を器用に登ってきているのです。
そして、
「ひどいだろういくらなんでも。『勇者の片腕、妹のいたずら道具に驚いて死亡』とか目も当てられんぞ。他人事なら大笑いだが」
「騎士のこともきっと誰かが笑ってくれますよ。というわけでさようなら」
「だから待て。待ってくれ頼む」
木の枝に両手でぶらさがって――
騎士ヴァイスは暗闇の中、ぶらんぶらんしながらわたくしに訴えました。
「せっかく来たんだからせめてもう少し話を」
「今日は来ないと仰っていましたよね?」
わたくしはランプを持って窓に戻ってきました。そして、騎士を責める気持ちでにらみました。
すると、
「いや今日は来るつもりはなかったんだが、カイのやつが巫女が怪我したと報せてきたもので――。大丈夫か?」
「………」
わたくしはむうとうなりました。こういうときの騎士は本当に心配そうな顔をします。ずるいです。
「……カイ様のお薬のおかげでだいぶ痛みは取れました。大丈夫です」
ご心配ありがとう――神妙に頭を下げると、騎士は嬉しそうに笑いました。ぶらぶらしたまま。
「それは重畳! っと、あまり大声を出してはソラが起きるな」
慌てて声をひそめます。
ただでさえ声の大きい人です。もうとっくにソラさんが起きてもおかしくないほどですが、幸いベッドのソラさんに動きはありません。
それにしても声を抑えた騎士、なんて。貴重すぎやしませんか。