託宣が下りました。
「ソラさんがこのお部屋だとよくご存じですね?」
「宿の亭主に聞いた」
「……だと思いました。本当に、平気でそういうことを調べますねあなたは」

 わたくしが呆れて言うと、「いや」と騎士は心外そうに首をかしげました。

「亭主に聞く前に予想はついていたぞ? あなたはおそらくソラと一緒の部屋で寝てくれるだろうと」
「――何でそんな」
「なに、巫女ならソラを独り寝させないと思っただけだ。となればラケシス殿が一緒かどうかだけが問題だが、おそらくラケシス殿とソラは相性が悪いから同じ部屋には泊まらんだろう」

 すらすらと答える騎士。その正確な洞察力に、わたくしはぽかんとしました。

 この騎士はこんなに察しのいい人だったでしょうか? こんなに人間関係に聡い人だったでしょうか。

 わたくしはじっと騎士を見つめました。ぶら下がっているとなおさら分かる引き締まった体躯、迷いの兆したためしがない、今はランプの炎の映りこむ双眸……。

 こちらが見つめている間にもぶらんぶらんと落ち着かなさそうです。そこまでして、なぜこの人はここに来たのでしょう?

 そんなにも……わたくしを心配してくれたのでしょうか?

(何だか、おかしな感じ……)

 片手をそっと胸に当ててみます。奥のほうに、ふわふわと落ち着かない何かがあるような。
 それにしても、

(この人は、()()()()()()()()()()()()?)

 ふとそんなことに思い至りました。

 カイ様は教えていないのでしょうか。知っていたらもっと騒いでいる気がします。
 わたくしはためらってから、思い切って口にしました。

「……騎士ヴァイス。今回の馬車を狙った犯人のこと……なんですけれど」
「犯人が分かっているのか!?」

 騎士はぶら下がったままこちらに身を乗り出すという、無理のある行動に出ました。

 体が大きく揺れます。見ていられなくて、わたくしは顔をそらしてしまいました。

「わ、と、と……」

 幸い落ちることもなく(どんな運動神経をしているのでしょう)、騎士は持ち直したようです。

「誰なんだ、巫女に怪我をさせたのは?」

 わたくしが視線を戻すと、彼の表情が真剣なものに変わっていました。嘘やごまかしのようには……見えません。

(やっぱり知らないのね)
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