託宣が下りました。
「そんなことで巫女殿の心を掴めると本気で思うのか?」
「うむ!」
「自信満々即答するな阿呆。お前はもっと女心を学べ。そして真摯に彼女と向き直れ」

 ……あれ?
 感謝の祈りを捧げようとしていたわたくしの手が、ふと止まります。

「勇者様……」
「はい? 何でしょう」

 くるりと振り返った勇者様はやっぱり優しげで、騎士ヴァイスに対するときの顔つきとは別人のようです。
 わたくしはおどおどと、勇者様を上目遣いに見ました。

「ゆ、勇者様は、この結婚に、反対――してくださるのでは?」

 え、と勇者様は驚いた声を出しました。

「反対……ですか。ええと……」

 そして逆にお尋ねになりました。どこかふしぎそうに。

「でも、託宣ですよね? あなた自身の……」
「――――!」

 本日二度目、声にならない悲鳴。ほうきをぎゅっと抱きしめ、わたくしは首を振るどころか全身を振りました。

 違うんですと叫びたかった。あの託宣は、きっと何かの間違いなんですと。
 もしも他人が下した託宣だったなら、もう少し何か言いようがあったかもしれません。その巫女の能力を全否定することにはなってしまうけれど、わたくしの葛藤も少しは違ったものになったでしょう。

 でもあの時、わたくしはたしかに聞いたのです。星の声を!

 わたくしがどんより影を背負ったことに気づいたのか、勇者様がおろおろと「アルテナ。元気出してください」と励まそうとしてくれます。
 すると離れた敷地外から、無駄に声の通る騎士が話しかけてくるのです。

「アレス! 俺の巫女殿を気安く名前で呼ぶな。俺でさえまだ気軽には呼んでいない」
「変なところに気がつくなお前は……」
「気づいて当然のところだ。それから巫女殿! 俺は菜食はやはりいかんと思う!」

 修道院の目の前で。たぶん建物の中にも聞こえる声で、騎士は言いました。

「巫女殿は俺の子を産むのだ。俺の子だぞ? 腹を突き破るくらい元気だろうから、肉も食わねばとても対抗できん!」

 自信満々にそう胸を張る、遠目にも凜々しい(大きなイノシシをかついだ)騎士の姿に――

「……もう、いやああああああっ!」

 わたくしは、錯乱してその場を逃げ出しました。
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