託宣が下りました。
 わたくしは無言で首を振りました。

「………」

 意味は伝わったでしょう。さぞかし彼を残念がらせるだろう――そう、思ったのに。

「そうか」

 騎士は微笑みました。炎の映り込む目を、やわらかくほどいて。

「あなたらしいな」

 その言葉は、満足げでさえありました。

 それでこそ巫女だ――。

 声に活力がみなぎっていました。騎士は片腕を枝から離し、わたくしのほうへと差し出しました。

 窓までの距離に少しだけ遠い。わたくしはそのてのひらをじっと見つめました。
 騎士は、低くやわらかい声で言いました。

「あなたに頼まれなくても俺は行く。それがあなたの役に立つからだ」
「―――」
「心配ない、必ず勝つ。まあ俺ひとりでは行かないしな。揃っていれば、俺たちは最強だ。信じていい」

 最強。

 その≪強さ≫を、信じろ、と。

 騎士は指先を少し空中に遊ばせました。

「まあ本当は一人で倒したほうが点数は高くなりそうな気がしているが、巫女を不必要に心配させてもなあ」
「――し」

 心配なんて、しません。

 なぜかわたくしは、むきになってそう言いました。

「死んでしまったって知りません。わたくしには関係ありませんからね。だ、だから」

 自分が何を言っているのか分からない。騎士の前だとたびたびこうなってしまう。もういい加減、自分を見失うのはいやなのに。

 でも。

「……死んでしまうのは無駄死にです。絶対に生きて戻ってきてください……ね」

 結論だけは、たしかに本心と重なっていて。

 騎士はにこりと笑いました。自信に満ちた笑みでした。

「約束する」

 そして彼は空中に遊ばせた手で、わたくしを招きました。

 わたくしは少しだけ窓に近づきました。それでも手は届きません。少し迷ってから――ランプを持っていないほうの手を、騎士の手の先に、ちょこっとだけ伸ばしてみました。

 触れた瞬間、熱い何かが通った気がしました。
 わたくしはぴくりと指を逃がしてから……またおそるおそる彼の指先に触れました。

 ――自分から彼に触れた。

 その瞬間はすべての熱が指先に集まったかのように思えて。
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