託宣が下りました。
 彼の指先がわたくしの指先を、()()なぞる――熱い熱が指の輪郭を這っていくのを、黙って受け止めている。

 そんな自分がふしぎでたまらず、足は頼る地面をなくしてふわふわと浮かんでいるようで。

 わたくしの指先を礼儀正しく持ち上げるようにして、彼は囁きました。

「無事に倒したらご褒美をくれないか」
「……何がほしいのですか」
「そうだな。もう一度口づけを許してほしい」

 それはその動物のような体勢で言うことなのですか、騎士よ。
 わたくしは即座に却下しようとして――その言葉を呑み込みました。

 なぜ、でしょうか。嫌だと言えない――。

「……お約束は、できませんが、――」

 指先だけを触れ合わせたまま、わたくしは。
 騎士から目をそらしました。手元のランプを隠してしまいたい気持ちでした。

 でも、隠せない。きっと彼にはわたくしの表情すべてが見えているでしょう。

 隠せない。何もかも。

「……少しだけ、考えておきます」

 騎士はそのとき、無理にわたくしの手を引こうとはしませんでした。

 彼には分かっていたのでしょうか。奪わずともその手に落ちかかっている、果実の揺らめき――が。
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