託宣が下りました。
 彼女が式典に連れて行ってもらえないのは、つまり、……どこでもこんな調子だからである。



 ソラは五人兄妹の中で唯一魔術の素養を受け継いだ。

 父は喜んで末娘に魔術を教えようとした。だがそれを、母親が必死で止めた。理由は具体的に語られていないが、あの『伝説の』アレクサンドルがふつうの魔術講義をしたとも思えないので……()して知るべし、だろう。

 それでも歯止めをかけていた母が亡くなり、しばらく父に任せられてしまった期間がある。その間に小さな彼女の魔術基礎は出来上がってしまっていた。とんでもない方向に。

 いわく、『魔術は人を驚かせてなんぼ』。



「ソソソソラちゃん、僕言ったよね? ネズミを人にけしかけちゃいけないって」
「怪我はさせないようにした。カイが勝手に恐がっただけだ」
「そ、そうだけど! ふつうの人だって恐いと思うよ?」
「これくらいで恐がるようでは魔物になど勝てるか! これは試練だ!」

 小さな彼女は藁で作った人形を片手にぶんぶんと振りかざし主張する。

 ソラは、どうやら人形遣いの道に進むようだ。彼女は粘土で動物を作るのが天才的にうまい。いっそ芸術家になってくれたほうが、世界はどんなに平和だっただろう。

 実はネズミを動かす術を教えたのはカイなのだ。彼自身、ものを動かす類の術は得意だったので――動く生物が苦手な彼がそれを得意としていると言うと皆がふしぎな顔をするが――『人形が動かせたら、女の子は喜ぶかな』と軽い気持ちで教えてしまったのだ。

 もちろん、彼の人生でもワーストに入る後悔である。

 『羽根のない鳥亭』はネズミにかじられた痕でいっぱいになった。扉の立て付けが悪いのも、実はそれが原因だったりする。

「魔の託宣が下ったのだ……我に大いなる魔を操れと。この世界の支配者になれと!」
「ぐ、具体的に何を操るの?」
「お兄ちゃん」

 ……それはたしかに世界の支配者になれるかもしれない。
 というか、さりげなく兄を『大いなる魔』って。

 カイは旅の仲間をぼんやり思い出しながらソラをたしなめる。

「世界を支配してもいいことないよ。やめときなよ」
「カイはツマラナイ男だな」

 ソラは不満そうに唇をつきだした。「そんなんじゃ女にモテないぞ」

「モテなくていいよ、僕は……」
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