託宣が下りました。
 二人、店の奥の居住スペースに向かう。

 店は狭い。魔術具だらけなのは当然としても、あちこちによく分からない置物があって道を狭めているのだ。

(よく見ると各国の置物なんだな。収集癖も相変わらず、か……あれ、なんだ?)

 巨大な人型の置物がある。見たことがない衣装を着ているので外国のものだろう。あの大きさだと……ひそかに貴重品なのじゃないだろうか?

 そのとき、聞きたくない音がどこからか聞こえてきた。

 キーキー、チーチーッ!

「え? ソラちゃんネズミは全部止めたんじゃないの?」
「え……えっと」

 ソラが急に汗をかきだした。カイは青くなった。ソラの知らないところでネズミが動いてる――ソラの魔力が暴走した!

「ど、どこだ!? どこにいる!」
「あ――あそこ!」

 自分のネズミだけにすぐに見つけ出したソラが、直後悲鳴を上げた。

「あ! それはかじっちゃダメ……!」

(――! あの、貴重そうな置物……!)

 ガリガリガリと容赦のない音が耳に届く。

 二人で駆け寄ると、一匹ばかりか三匹ものネズミが置物に群がっていた。一度に三匹分の魔力が暴走したとなれば、それはソラの魔力が成長したということなのだが、今は喜んでいる場合じゃない。

 カイはすぐに空中に魔法陣を描き、ソラの魔力を断ち切った。

 しかし、ソラのネズミのかじる力は半端ではない。わずかの間に、置物の底はぼろぼろになっていた。

「あ――」

 ソラががくんと床に座り込んだ。「ど、どうしよう……親父殿が、親父殿が怒るよ」

「……お父さん、怒ると恐かったっけ?」
「じ、実験体にされちゃう……!」
「……」

 アレクサンドルの一見優しげな笑みを思い出し、カイは思う。あの顔に何人の魔術師仲間がだまされたことか。

 一番恐いのは怒る人間ではない。笑いながらとんでもないことをする人間なのだ。

 だから――

 カイはおもむろに空中に魔法陣を描き、そして。

 ネズミにかじられた底の部分を、破壊した。



「カイ!?」
「――これで、犯人は僕になる。大丈夫だよ」

 ため息まじりにそう言い、ソラに笑いかける。できるだけ目を隠すようにしている前髪のせいで、あまり見えないだろうけれど。

「カ、カイ、でも親父殿には分かる」
「大丈夫。僕だって術には自信があるんだ――君の魔力は消しておく。大丈夫」
< 127 / 485 >

この作品をシェア

pagetop