託宣が下りました。
「巫女殿? 巫女――!」
「敷地内に入るなヴァイス!」
「ええい、なぜイノシシがここにあるんだ!」
「お前が狩ってきたからだこの阿呆! いいから来るな……!」

 背後から騎士ヴァイスと勇者アレスの意味のないやりとりが聞こえてきます。……



「大丈夫? アルテナ」

 修道院の端の廊下で、膝をかかえてしくしくと泣いていたところへやってきたのは、心配顔のシェーラでした。

「大丈夫じゃありません……」
「おもしろ……じゃない、凄かったわねえ今日は勇者様までいて。みんなこっそり見てたわよ」
「!」

 余計なことを知らされて、わたくしはいっそうさめざめと泣きました。

「もういやあ……」

 これはわたくしが悪いのでしょうか。逃げるわたくしが全て悪い?
 託宣なのだから、大人しく従わなくてはいけない。……本来はそうなのでしょう。

 正直なところ、自分でもなぜこんなに反抗心しかないのか分かりません。わたくしとて修行した星の巫女。託宣の大切さは重々理解しているつもりです。

 ――二人の間に生まれた子は、救世主となるという。

 国のためを思うなら、従うべきなのでしょう。わたくしにも愛国心ぐらいあります。国の人々の役に立ちたくて星の巫女になったのですから。

 それなのに……

 頭の中を今日の騎士の姿が巡ります。イノシシを担いだ姿。菜食はやめろ。おまけに大切な魔物退治を断ってまでわたくしに、――

 何度考えてみても。
 どうしても。どうしても!
 口から出てくるのはこの言葉ばかり――

「いやだと言ったら、いやです!」

 星に逆らうわたくしは、巫女を返上しなくてはならないのでしょうか。
 どうかもう少し考えさせてほしいのです。どうか……
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