託宣が下りました。
番外編:妹、決心する。*「お約束はできませんが――。」のネタバレあり。
「それは重畳! っと、あまり大声を出してはソラが起きるな」
――アホじゃないのお兄ちゃん、と妹ソラはベッドの中で兄に毒づいた。
そんな台詞が出てくるより先に、妹はもう起きていたのだ――兄が自分のネズミで落下したあのときに。
(巫女めあなどれん。我のネズミで兄を驚かすとはっ。おまけに素知らぬふりで『ごきげんよう』とは……あなどれん!)
そう思いながら、ソラは興奮で眠れなくなっていた。
何しろ巫女と兄が夜中に密会しているのだ。これでわくわくしないわけがない!
起きていることに気づかれぬよう、ベッドの中で息を殺す。……苦しい。ちょっとは呼吸してもいいか。超人的な兄のことだから、妹の呼吸がおかしいとか言い出しかねない。たまにあるのだ、あの動物的な感覚の持ち主は。
もっともそれを知っているのは家族や英雄仲間だけかもしれなかった。何しろあの兄は、交友関係が広いわりに深い付き合いが少ない。あのテンションについていける人間が限られているし、本人も広く浅くを好むタチなのだ。去る者追わず、を徹底してきた男だ。
追っているのはただ一人、巫女アルテナだけ。
(お兄ちゃんは本当に巫女が好き)
兄がソラの前で巫女について語ることは少ない。姉のモラが文句を言って、兄がそれに言い返したときに聞けるくらいのことだが、それでもソラは確信していた。
兄がどうして巫女をあんなに好いているのかは分からない。ことによると深い理由などないのかもしれない。何しろあの兄の行動に深い意味があったためしがないのだし。
だけれど、人が人を好きになるのにはきっかけさえあればいい。
ソラも今では巫女が大好きだからそう思う。巨大化してしまった人形を必死で止めてくれた巫女の姿を、ソラは今でも忘れていない。