託宣が下りました。
残念ながらフランソワの目論見は失敗に終わり、ヴァイスはそれからもヴァイスであり続けた。フォーライク家の名声がどのように影響を受けたかは……ヴァイスの父アレクサンドルの怪しい店が国中にとって色んな意味で有名であることでも分かるだろうか。
ヴァイスにとって『騎士』などどうでもいい称号だった。地位ある者の証明だなどと、自由な彼には本気で意味を見いだせなかったのだ。
否、彼も肩書きの重要性ならよく知っている。それ自体は否定しない。
だが自力で手に入れたものでなければ価値などない。ただそれだけだ。
それだけ――だったのだが。
「騎士ヴァイス、いい加減帰ってください……!」
「いやだ。もう少しあなたの顔を見ていく」
「人の顔をまじまじと見ないでください、騎士よ……!」
――数年後。とある人物が彼をやたらと称号で呼ぶようになる。
そのとき彼はこう思ったという。彼女が呼びやすいというなら、こんな空っぽの肩書きにも意味はある。
彼女が呼ぶからこの称号に愛着を持った。もらっておけるものはもらっておくものだ――。
……それはあいにく、その称号の本来の意味とは似ても似つかない『意義』だったけれど。
ちなみにフランソワは十二年経った今も存命である。日々ベッドの上から、甥の活躍(?)ぶりにやきもきしているという……。
(騎士が騎士である理由/終わり)