託宣が下りました。
第六話 恐くなどありませんから。
王都で星の託宣が下った。魔王の再降臨という内容の――。
「どういうことですかお父様!?」
わたくしは父に詰め寄りました。けれど父も力なく首を振るのみです。
「詳しくは分からん。ただ……」
「え?」
「今回の託宣を下したのは、シェーラ・ブルックリンだそうだ」
「!?」
*
魔物討伐の後処理のために騎士が帰っていき、父母は王都の情報を求めてにわかに忙しくなり。
夕刻、わたくしは一人で使用人たちとともに家に残っていました。
せめて勉強に取りかかろうとしたのに、何を読んでも頭の中を通り抜けていってしまいます。やがて色々諦めたわたくしは、居間でソファに腰かけ、お茶を飲んで物思いにふけっていました。
ソラさんは二階の客室で眠っています。彼女の回復だけが、今のわたくしを元気づける要素です。
しっかりしたい。けれど何が起こっているのかさっぱり分からない状況では、まるで立つべき地面がぶにょぶにょに軟化しているかのようで、どうしていいか分かりません。何を考えたらよいかさえ分からず、ため息ばかりが深くなります。
と。ふと使用人がやってくると、来客を告げました。
(来客……?)
使用人が連れてきたのは、顔を青くした少年――。
「お姉さん! 大丈夫ですか!?」
「カイ様……」
わたくしの顔を見るなり駆け寄ってきてくれたカイ様に、わたくしは何とか微笑んでみせました。
「わたくしのことなんか気にしないでください。カイ様こそ、洞窟攻略大変だったでしょう」
「こんなときに無理をしなくていいんですよ、アルテナ」
もう一人、居間に入ってきた人物。勇者アレス様です。どうやらカイ様と連れだってわたくしの様子を見に来てくれたよう。
二人とも魔物討伐の後始末で忙しいでしょうに。心遣いが身にしみます。
話は聞きました、とアレス様は言いました。
「星の託宣がくだったそうですね。それもシェーラさんによる」
「そう……みたいです」
そんなあいまいな返事しかできないのが寂しい。実はサンミリオンに着いてすぐシェーラには手紙を送っているのですが、返事がまだ来ていないのです。
だからシェーラの今の状況を、わたくしは知りません。
まして、星の巫女に抜擢されていただなんて。